クリエイターは経営者の課題を引き出せるか。これを検証するために、実際に実験をしてみた。築地玉寿司の社長に、博報堂の気鋭のクリエイターが挑む。初対面のふたりは何を語るか。対談は夏の終わりに博報堂の会議室で行われた。中野里社長が来ていたジャケットを脱ぎ、少しだけリラックスした雰囲気になった。
クリエイター、メニューへの違和感を語る
小杉:初めまして。ちょっと緊張しております。
中野里:いえいえ、僕の方が緊張しちゃいます。今日はよろしくお願いします。

(なかのり・ようへい)
1972年東京都生まれ。米国留学を経て、1999年に株式会社玉寿司に入社。創業90年を超える老舗寿司店「築地玉寿司」を受け継ぎ、2005年に33歳で4代目社長に就任。現在、全国に27店舗を展開している。
小杉:こちらこそよろしくお願いします。通常の仕事では、クライアントさんから「こういうことをやりたいんだけど」というお題があるのが普通なのですが、今日はそこから見つけて行こうということですので、ざっくばらんにお話を聞かせて頂ければと思います。
中野里社長は4代目ということで、お父様の3代目の時から玉寿司さんは大きくなったそうですね。
中野里:そうですね。僕が引き継ぐ前から多店舗展開はしていました。昭和46年に、3代目が銀座に出したお店が若者にすごく人気になったんです。日本で初めて手巻き寿司をやったりしたんですけど、ちょうど日本の経済成長時代で、色々な駅ビルの担当者から「ぜひ出店してください」ということで次々に声がかかりました。それが、玉寿司がお店を広げて行くきっかけでしたね。
手巻き寿司も玉寿司さん発祥だったんですね。実は昨日、晴海通り店に行かせて頂きました。そして、こっそり写真を撮らせてもらったのですけど…
小杉:私はデザイナーなので、ついついロゴやメニュー、店内のデザインなどがすごく気になってしまうんです。
お店の入口にはロゴマークが目にバーンと飛び込んできて、店内のデザインもゴージャス系というよりは和の世界観を作られていると感じました。
で、席についてメニューを見たり、注文したんですけど、メニューがなんだかチェーン店っぽいな…と、一人の消費者として感じました。
中野里:そうですか。小杉さんに見て頂いたメニューは定番のグランドメニューというのですが、全27店舗で展開しています。やっぱりのれんに対する信頼は大事なので、お店ごとに味やメニューが違うのは良くないなということで作っています。加えて、それぞれのお店のこだわりは手書きのメニューがあります。
グランドメニューを作るとチェーン店っぽくなるんですよ。でも、このクオリティを上げて行くと、社員達がこのレベルに追いついて行かなきゃいけない。それを狙っているんです。
小杉:なるほど、色々悩んだ結果、今このメニューなんですね。