経営者、チェーン店の悩みを語る

中野里:とはいえ、チェーン店っぽくしたいわけではありません。玉寿司が目指しているのは、日常使いができるけど本物の寿司職人がいる、おもてなしに満ちあふれた店。言うのは簡単なんだけど、実現するのは結構大変なんですね。清掃も徹底しますし、笑顔や挨拶もあたりまえ。感じの良い言葉遣いに、目配り気配り。これをずーっと徹底して貫くことは、なかなかできないんです。

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玉寿司の企業理念
(玉寿司のWEBサイトより)

 なので、うちの会社では経営理念をラミネート加工したものを全員に配っていて、大事にしたい想いを誰もが分かりやすい言葉にしています。玉寿司には調理者が約150人、アルバイトも含めれば約500人はいますが、皆を気持ちの上でまとめているものはやはり経営理念です。

小杉:基本が大事だということですね。

中野里:毎日意識はしているんですが、対応力は当然ばらつきが出てくる。うちのような労働集約型の仕事では、全員が期待する能力を持っていて、笑顔があり、ホスピタリティがあったら、経営者は苦労もしない訳です。でも実際はそうではないので、いっぱい悩みがあります。なので、社員やスタッフが困った時、「どっちの方向を向けば良いの」というものが企業理念であり、これを言い続けることだな、と。

小杉:たしかにそうですね。ちょっと見当はずれかもしれないんですけど、タクシードライバーにとって、最初のコミュニケーションが大事だという話を聞いたことがあります。たとえば、「天気悪いですね」っていう投げかけに対してお客さんがどう答えるかで、「あ、この人は話したくないんだな」とか、「お、この人はイケるな」って判断するらしいんです。

 こんなレベルの高い人から、「新人なんで、道分からないんです」みたいな人までいますよね。

 その時にふと考えたのが、すごいドライバーだったら初乗り1200円、新人だったら半額、みたいな料金設定はできないのかなってことです。お客さんもあらかじめドライバーのレベルを知っていれば、心配事が一つ減るというか、心に余裕ができると思うんですね。もしかしたら寿司職人も、全員が同じ職人に見えるよりも、違いをつけるのもあるかもしれません。