こうして激しいメッセージを打ち出すと、「あいつはなんだ」と思われることもあります。それは事実でもあり、そうした批判も大事だと思っています。他人に何を思われてもかまわないのですが、自分の利益のためにと思ってではないことは自信を持って言えます。また、私に賛同できなくても、こうして話をすることで、過去にはそれだけの経営者がいたと知ってもらうだけでも価値があると思っています。いや、自分では非常に謙虚なつもりなんですけどね(笑)。
アジアで「NATO」と揶揄される
日本の大企業
——世界で戦ううえで、日本企業には何が必要なのでしょうか。
日本の大企業はアジアで「NATO」と言われています。「No Action, Talking Only」。彼らは日本の会社、日本の製品をとても評価してくれていて、日本も大好きです。一方で、日本の大企業にはスピード感がない、意思決定もしない、誰が責任者かもわからない。結果的に、魅力的な事業でもご破算になってしまう。そんななかで、私たちみたいな企業が行くからこそ、とてもよくしてもらえるのだと思います。
インドで「盛田昭夫みたいな奴が来た」と言われたときは本当に嬉しかったです。50、60代のインドの人には、盛田さんを知っている人が多いんですよ。彼らは日本のことを尊敬しています。逆に、日本にとってインドは優先順位が低かったので、優秀な人材が派遣されることも少なかったのでしょう。そこに大きな空白期間があるんですよね。
国と国との関係を築くうえでも、個人のメッセージ、個人の信頼関係は大きな影響力を持ちます。彼らにとっての日本を象徴するのが盛田さんであったからこそ、私たちもよい関係を築いてもらえる。でも、いまの若いインドの人にとって日本のイメージが薄くなっているでしょうね。首相の顔がちょっと出てくるだけでしょう。それは東南アジアも然りです。
政治家に限らず、顔の見えるリーダーがもっともっと出てくれば、そこに日本の強さが生まれてくるのではないでしょうか。
――徳重さんは、これからの目標をどこに置いていますか。
現在のEVの世界では、イーロン・マスクのテスラが圧倒的なプレゼンスを持っています。時価総額でいうとGMの約半分、マツダや三菱の約3倍ある。でも、実際の売上げはそこまで差がないんですよ。それでも圧倒的な存在感を持っているのがテスラです。
社員によく言っているのは、アジアが中心とされるEV2輪あるいはEV3輪の市場で、2年以内にテスラのようなプレゼンスを持つことが目標です。実現可能性の高い目標ではあるかなと思っていますね。
――より中・長期の目標はいかがでしょうか。
中期の話で言うと、いわゆるメガ・ベンチャーになることです。私がイメージするメガ・ベンチャーとは、時価総額で最低1000億円の企業です。それは次にやらなければいけないことだと思っています。より長期でやりたいのは、アントレプレナーの教育です。日本にはプロのアントレプレナーが圧倒的に少ないと思います。多くは上場がゴールになり、上手くいく可能性の高い市場ばかりに攻め込む。でも、それはプロではないと思います。
うちの会社には若い人がどんどん入ってきています。将来、自分で会社やりたいと思ってくる人も多いですよ。たとえば、うちで5年、10年とやればベンチャー企業がどんなものかもわかるし、力もつく。また、彼らに株も持たせているので、資金もできるわけです。つまり、起業に必要なノウハウや経験、そして資金までを用意してあげられます。また、ここにいたのであれば、少なくとも小さなことを目指そうとは思わないはずです。それは格好悪いと思っているので。
シリコンバレーに「ペイパル・マフィア」があるように、うちの社員がどんどんスピンアウトして「テラ・マフィア」ができればいいと思います。産業をつくることは、一つの会社では難しい面もあります。うちからどんどんスピンアウトしていけば、そこには非常に大きな広がりが生まれます。実際にはいまも半分教育みたいなもので、社員にも徹底的に教育していますよ。
最初からグローバルに考えれば、いろいろなチャンスがあると思います。アメリカのテレビの売上げの1位をご存じですか。サムソンやソニーではなく、VIZIOというベンチャー企業です。テレビのような家電製品の本丸でベンチャー企業がトップなんてありえないと思いますよね。それもアメリカで。でも、それは現実に起きていることなのです。ヨドバシカメラやビッグカメラに行ったとき、ソニーやパナソニックより、テラがメインになっていたら、世の中変わってきたなと実感する瞬間だと思います。
前編「“中途半端に”頭が良いだけではつまらない 壮大な理想を掲げ、クレイジーに突き進め」
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│巻頭言│
経営とは狂気の産物である
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創造性 vs. 生産性
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創造性も生産性も後からついてくる
社員が結果を出せる「仕組み」 とは何か
松本 晃 カルビー 代表取締役会長兼CEO
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