例えば、京セラ時代は、「私は営業の先頭に立って、電子管を研究開発しているメーカー、研究所を回った。…昼は営業、夜は開発の一人二役で未知の製品作りに挑戦した」とある。自ら起業したセラミック・ベンチャーの成長のために、あらゆる活動に自ら奔走する姿が目に浮かぶ。これが、京セラから出資して創設したDDI社長時代は、「危機感のもと、市外回線獲得の一大攻勢をかけた。いち早くDDIアダプターのレンタル料無料化を決断して、契約回線数の増加を図った」とあり、重要なマーケティング意思決定には関わっているものの、さすがに京セラ時代のように、直接実務にタッチするわけではなかったようである。そして、日本航空の経営再建では、「(パイロットの)ヘッドセットの修理代が増えとるな。何でや?」とか、「スカイチームに移籍したら、ワンワールドで得たJALのお客様の特典はどうなる?」とか、事業部門から経営会議に上がってくる資料やデータに対して、厳しい質問を投げ掛ける役割を果たしていたようである。これだけで必ずしも言い切るだけの自信はないが、関与度は企業の発展ステージや自分の経営者としての能力進化に合わせて、徐々に変えざるを得なかったということであろうか。

大企業の経営者に多い「マーケティング・ミニマリストCEO」

 一方の対極には、マーケティングにはほとんど、あるいは最低限にしか関わっていないような一群の経営者がいる。例えば、総合商社、大手鉄鋼メーカー、総合電機といった巨大企業の経営者である。こうした経営者たちの自伝を読んでも、重要顧客への挨拶・訪問はそれなりにしてはいるものの、それ以外のマーケティング活動に積極的に関わっているようには見えない。そもそもマーケティング活動に関連する記述自体が極めて少ない。そういう意味で、最低限の関わりしか持っていないし、そもそもそういうマインド自体が希薄な印象である。少なくとも、これまでのこうした企業群の著名経営者にはそういう人が多かったのであろう。

 ただ最近では、前回紹介した通り、こうしたB2Bの多角化大企業でも最近CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)が設置され経営レベルでのマーケティングへの関与が進むなど、変化もみられる。

 こうしてマーケティングCEOスペクトラムの具体例を見てくると、どうやら経営者のマーケティングに対する関わりには、置かれた環境や自身のスタイルなどによって、さまざまな形があり得て、しかも時と場所次第でその関わり方も変わりうることである。つまり、いつ誰にでもあてはまるような教科書的な汎用解はなさそうだ、ということでもある。同時に一方で、関わり方の深い企業経営者たちに最小限共通していることをまとめてみると、経営者としてマーケティング面で最低限押さえておくべきこともありそうである。

 次回は、こうした経営的マーケティングのいわば「定石」と言えるようなものをご紹介したい。