経営者のマーケティングへの関与は大きく3つのタイプに分けられる。今回はスティーブ・ジョブズ、鈴木敏文、小倉昌男ら、代表的な経営者の実例をもとに、経営者がどのようにマーケティングを行っているのか読み解く。

ジョブズ氏らに代表される「ザ・マーケティングCEO」

写真を拡大
今村 英明(いまむら・ひであき)
信州大学経営大学院教授、早稲田大学ビジネススクール客員教授。東京大学経済学部経済学科卒業、スタンフォード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。三菱商事、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に勤務。BCGではマネージング・ディレクター、上海事務所所長、などを歴任した。 専門は企業変革のマネジメント、リーダー育成・リーダーシップ、ビジネス・マーケティング。主な著書に、『崩壊する組織にはみな「前兆」がある』など。

 前回は、マーケティング活動への経営者の関与の仕方を、「マーケティングCEOスペクトラム」としてご紹介した。そして、もっとも深く関わる経営者を「ザ・マーケティングCEO」、最低限しか関わらない経営者を「マーケティング・ミニマリスト」、選択的に積極的に関わる経営者を「マーケティング・アクティビスト」と呼んだ。今回は、それぞれのタイプの具体例をご紹介しよう。

 代表格は、アップルの故スティーブ・ジョブズ元会長兼CEOであろう。アップルの企業活動の内、ジョブズ氏が関わったとされる業務を図示したのが、図1である。中央のCEOがジョブズ氏であるが、実質的にワンマン経営者として会社運営をしていた同氏らしく、CEOにSVP、VPなどのほとんどの役員がレポートしていたようである。

 図中の太線と破線がレポートラインであり、それぞれ関与度の強弱を表している。その中で網掛けをしている部分がマーケティング活動に関連する諸機能である。同氏は、「顧客体験の全てに完璧を期す」という基本姿勢に基づき、商品コンセプト作成、製品デザイン、製品仕様・カラー・材質・手触り、包装、価格、代理店の選定・コピー作成・音楽・タレントの決定などの広告業務、製品市場投入のプレゼンテーション、販売チャネルの選択、店舗のデザイン・販売方法、出荷日などに全て直接関わり、細かく指示を出していたと言われる。彼は同社の主要なマーケティング活動のほとんどに自身の相当の時間を投入していたようであり、文字通りマーケティングに深く関わる「ザ・マーケティングCEO」と呼びうる存在であろう。氏の経営上のインパクトの大きさは言うまでもない。

 

写真を拡大
図1:アップルの「芯」 - 推定組織図