定石6:「マーケティング経営会議」を主催する
CMOがハードルの高い選択肢だとしても、一方で経営トップがザ・マーケティングCEOを目指す場合に、時間も体力・気力も有限でありトップが全てを掌握し指示するのは困難だというのもこれまた現実である。さて、どうするか?
一つの解決策として、トップに案件が上がってきたときに、マーケティングのツボを押さえた質問をすることによって、役員・幹部社員のマーケティング思考を促すことが有効だと思われる。経営会議体にマーケティング発想を持ち込むことができるだけでなく、経営者自身が情報や知見がない部分で誤った指示を行うリスクを回避し、幹部・部下たちにマーケティング視点で再考させる教育的効果もある。
多くの著名経営者がマーケティング経営会議化を実践しているが、一番有名なのはパナソニック創業者の松下幸之助氏であろうか。同氏は、各部門から新製品などの社内稟議が経営会議に上がってくると、
「それで、松下の利益はどのくらいになるんや?」に加えて、
「ところで、お客さんは喜びますか?」
「喜ぶというんやったら、どういうところで喜ぶんやろか?」
などの質問を繰り返したあげく、最後は「ご苦労さん」と担当者の苦労をねぎらったという。まさにマーケティング経営会議そのものである。これを見ていた役員の一人は、「幸之助流の経営塾だった」とも回顧しているので、役員・社員の意識・行動改革手段でもあったようである。
3回にわたり、経営的マーケティングのあり方を見てきた。今のところ、経営者として自らどこまでマーケティングに関与すべきか、の定説はない。経営者自身で「マーケティングCEOスペクトラム」上の自分の立ち位置と関与の幅と深さを決めねばならない。一方で、マーケティングの緊要度が高まる中で、ミニマリスト的な関わりだけでは足りないかもしれない。企業の創業時や急成長期に立ち戻るように、現代の大企業経営者は、アクティビストからさらにザ・マーケティングCEOへ、スペクトラムの右から左へ徐々に意識的にシフトしていく必要性が高まってきていると言えよう。