システム思考をコミュニケーションツールとして使う

枝廣:もう一つシステム思考のいい点は、コミュニケーションツールになるということです。自分のなかでグルグルしている問題を考えるときは、自分との対話のコミュニケーションツールになりますし、組織の中でのコミュニケーションツールにもなります。

 というのも、いろいろな部署の人たちが言葉で話し合うと喧嘩になりやすいでしょ。たとえば会議で何かを口頭で説明しようとしたとき、本質的なこととは違ったところで茶々が入って感情的になったりしますよね。それならばループ図をまず描いておけばいい。

篠田:相手に全体図をまず見せるということですね。

枝廣:そうです。自分から見た全体図を見せて、足りないところはありませんか、そちらからはどう見えていますかとループ図をみんなで描き加えていくとすごく冷静にコミュニケーションができるんです。

篠田:なるほど。

枝廣:システム思考を使って自分の人生を変えようというワークショップもやっています。皆さん、わかっているけどついやっちゃうってことが大なり小なりありますよね。それは自分の性格や根性のせいではなく、そういう構造になっているからです。

 改善するには構造を変えなくてはいけない。だから、何回やってもダイエットに失敗するとか、英会話学校が続かないという方が参加されます。私たちがお手伝いしながらその構造を自分で描いてもらうわけです。

 かつて、いつも同じパターンで失恋するという女性がいらっしゃいました。彼女はそのパターンをループ図にすることで、自分の失恋のパターンの原型がわかったんです。

篠田:へぇー。ちなみにそれは何だったんですか。

枝廣:本当の問題はメンタルモデルにあることが多いんです。自分はなぜ、この場面でいつもこんなことを言ってしまうんだろう。だから彼が離れていくんだという図をつくったときに、恋愛とはこういうものだとか、男とはこういうものだというメンタルモデルをもっているからそういう行動をいつも取ってしまうということに気づいたのです。メンタルモデルは気づけば緩められるんですよ。そういう男もいるけど、そうじゃない男もいるという緩め方をすると、同じ場面で違うことが言えたりする。失恋の原因がわかったと彼女は喜んで帰りました。そのあと何か月かして、いまのところ続いていますという連絡がありました。

篠田:おお、素晴らしい。気づけば緩められるんですね。

枝廣:逆に、気づかなければ縛られてしまう。

篠田:たしかに気がつくことはすごく大事で、そうなんだと気づいただけで自分の気持ちが安らぎます。事業も同じで、なぜうまくいかないんだろうというときも、ここがこうだったからダメだったんだと冷静に納得できれば、それだけで一歩前進ですよね。

枝廣:うまくいかないときって他人や自分を責めてしまうことが多いでしょ。システム思考は、他人も自分も責めない思考法です。もちろん他人や自分が悪い場合もあるけど、繰り返し同じような問題が起こるとしたら、問題の原因は構造にあると考えられるんです。

 システム思考を勉強するようになって私は気持ちがすごく楽になりました。何かうまくいかないことがあっても自分を否定したり、誰かのせいにしなくてもすむようになりましたから。

『世界はシステムで動く』

篠田:自分の人格とメンタルモデルは少し距離があるということですね。

枝廣:違うものなんです。たまたま小さなときの押し付けとか教育、誰かの影響でそんなふうに思い込んできたけど、それは人格とイコールではないし、人格がしっかりしていればメンタルモデルを緩めることで人生が楽になります。

篠田:構造がわかるとはそういうことなんですね。

 今日は貴重なお話しを聞かせていただき、ありがとうございました。

枝廣:こちらこそ、とても楽しかったです。

 

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第1回:行列のできるドーナツ屋さんが成長の限界を迎える理由
第2回:糸井事務所には上司・部下の関係がありません