今日の近代的マネジメントは、これと同様の転換期にさしかかっていると我々は考える。マネジメントは情報集約型の活動であるが、APIやソフトウェア・インターフェースの進化によって、コンピュータを介してプロジェクトを的確に手配・追跡することがかつてなく容易になっている。その好例としてすでに日常的に見られるのが、タクシー配車サービスのUberやLyftだ。オンデマンド交通の手配と支払いのプロセスが、ソフトウェアによって管理されている。iCEOの試作品が示唆するのは、そう遠くない将来にAPIが単純な業務プロセスだけでなく、これまでマネジメントの範疇とされてきた多種多様な業務においても概念化と管理に貢献するだろうということだ。
もちろん、このような動きの背後には、オートメーションと労働に関するもっと大きな議論がある。ビル・ゲイツやローレンス・サマーズなどは、デジタル技術が労働に与える破壊的変化は多くの人々が考えるよりも速く、より大規模なものになるだろうと声を大にして警告している。しかしこれまでのところ、議論の焦点は主に次の2つである。まず、ロボット工学の絶え間ない進化の影響を受ける、ブルーカラー職とサービス職の未来。そして、アウトソーシングおよび生産性向上ソフトウェアの影響を受ける、オフィス勤務のホワイトカラー職の未来だ。
だから企業幹部たちは、将来の労働に起きる変化の矢面に立つのは部下たちであり、みずからの立場は影響を免れると思い込んでしまうのだろう。だがそれは正しくない。我々はiCEOを使用した研究について公表することで、厳しい現実を明らかにしようと考えた。Cスイート(最高責任者)という立場でも、そう長いこと安全ではいられない。じきに株主たちは、生産ラインの従業員とオフィスのマネジャーに対して行っていた費用対効果の分析を、経営幹部とその高額な給与についても適用するようになるだろう。
iCEOは、いま私たちが直視すべきもう1つの事実をあぶり出している。企業組織はそれ自体が1つのテクノロジーにすぎず、現在の形態で存在しているのはたかだか200年、人間の歴史からすればほんのわずかな時間なのだ。会社という組織形態は18世紀に、規模を最大化し取引コストを最小化するための当時のツールを基に生み出された。いまやその組織形態は、会社そのものと似たような機能を持つテクノロジーの出現によって、破壊的変化にさらされている。従来型の組織はもはや多品種大量生産が必須ではないため、目的を達成できる新世代の代替テクノロジーに脅かされることだろう。
企業の上級幹部はこの事態が必然であることを認識し、労働の未来に関する議論に参加すべきである(現在では政策レベルでしか語られていないように見える)。仕事環境の向上、雇用機会の増大、そして柔軟性のある新しい働き方について、あらゆる人に恩恵となる真の解決策が必要とされている。幹部もその他の人々と同じように、選択を迫られているのだ。解決策の検討にいま着手するか、それとも自分の役割が自動化されて無くなるのをただ見ているかである。
HBR.ORG原文:Here’s How Managers Can Be Replaced by Software April 21, 2015
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デビン・フィドラー(Devin Fidler)
シリコンバレーの独立非営利研究機関、インスティテュート・フォー・ザ・フューチャーのリサーチディレクター。