(3)共感する
共感とは、相手の見解を理解するだけでなく、相手の感情を我がことのように体験する行為である。それなくしては他人は宇宙人のように不可解なままだ。共感によって人間同士のつながりが成立し、コーチングが可能になる。
共感の重要性を理解するには、ヒューストン大学の研究教授ブレネー・ブラウンの著作が参考になる。ブラウンは人間の脆さ、勇気、価値、恥などを研究テーマとしている。彼女は恥の定義を、「自分には欠陥があるために愛される価値がなく、他者と信頼関係を築くにも値しない、と思い込む非常につらい感覚または経験」としている。そして、共感とは「恥を治癒する薬」であるという。
部下があなたの助けを必要としている時、その人は何らかの恥を経験している可能性が高い。それは少しきまりが悪い程度のものかも知れないが、問題が深刻であればあるほど恥の感覚も強くなる。共感し、それを表現することは、相手の恥の感覚を和らげ、解決に向けて創造的に考えるよう促すうえで極めて重要である。
ただし、共感を示す際に陥りがちな落とし穴にも注意したい。トロントでソフトウェア開発者やプロダクトマネジャーのコーチングを支援するマイケル・サホタは、いくつか注意事項を挙げている。(1)相手の問題を自分のケースと比べてしまうこと(「私の問題のほうが深刻だ」)、(2)過度にポジティブになること(「明るい面を見ようよ」)、(3)相手の今の感情を忖度せぬまま、問題解決へと突き進むこと、である。
最後に、共感を示す時でも、部下のハードルを下げる必要はないことを覚えておこう。共感はパフォーマンスの低さを大目に見ることと同じだと思うかも知れないが、それは別の問題である。
部下が直面している困難に共感することは、部下の再起力を高め挫折からの学びを助けるうえで重要なステップとなる。あなたが部下の苦労と感情を受けとめれば、成果向上へのモチベーションを高めようとするあなたの努力に、部下はおそらく応えてくれるはずだ。
リーダーとしてコーチングを行うために、専門家になる必要はない。職場で一番聡明な人間、あるいは最も経験豊富な人間である必要もない。すべての答えを知っていなくてもよい。求められるのは、相手と絆を築けること、ベストを尽くす意欲を引き出せること、そして内省し自分自身で答えを見出せるよう助けることなのだ。
HBR.org原文:How Great Coaches Ask, Listen, and Empathize, February 18, 2015.