いかに優れた戦略でも、組織づくり、チームづくりがうまくいかなければ実行に落とし込めない。グーグルにおける組織運営のコツを紹介する。好評連載、第12回。
前回はデジタルを活用しマーケティングを進化させていく上で、マネジメント層が直面している4つの課題を挙げた。今回はこれらの課題を解決するために必要となる、マーケティングの「組織」と「オペレーション」のあり方を、グーグルの取り組みとともに考えたい。
デジタルを活用する組織づくりとは
デジタルテクノロジーを経営の力とするために、マーケティング組織はどうあるべきか。まず、製品、ブランドに責任をもつ「マーケティングマネージャー」が戦略に一貫性を持たせながら、クリエイティブ、リサーチなどの「エキスパート」が高度な専門性を提供する体制構築と、それぞれの機能が円滑に協働する仕組みづくりが鍵となる。

小池 渉 (こいけ・わたる)
グーグル株式会社コンシューママーケティング本部長。
日本におけるGoogleのコンシューマー向け戦略、マーケティングの責任者をつとめる。それ以前はYouTubeや新広告プロダクトのアジア太平洋地域への展開、ビジネスマーケティングを担当。Google入社以前はリクルート、NTTコミュニケーションズで一貫してネットサービスの開発、マーケティングに携わる。京都大学工学修士、カーネギーメロン大学経営学修士を取得。
グーグルでは、検索、YouTube、Android、Chrome、Google Playなど、プロダクトごとにマーケティングマネージャーをアサインしている。マーケティングマネージャーは担当するプロダクトのユーザー数や認知獲得といったマーケティングゴールに責任を持ち、マーケティング戦略の策定、予算管理、マーケティング施策の実行、報告を担う。そして、社内外のステークホルダーを巻き込みながらマーケティング戦略を実現する推進力となる。
一方、エキスパートチームは、クリエイティブ、デジタルメディア、ユーザーエクスペリエンス、リサーチなど、それぞれに高度な専門性を持つチームがグローバルに組織されている。マーケティングマネージャーは、これらチームの支援を得ながらプロジェクトを推進する。エキスパートチームは専門性を提供しながら、そこから得られた知見を蓄積し、ベストプラクティスをグローバルに水平展開することで、マーケティング組織全体の能力を高める責任を持つ。
こうしたマトリックス体制を採用する場合、意思決定が複雑化するリスクもあり、これを機能させるためには、ゴールを明確にし、関係者で共有することが重要になる。グーグルでは、四半期ごとに数値目標や中長期のビジョンも含むOKR (Objectives and Key Results)と呼ぶゴールを設定しており、全社レベルのOKRからチーム単位のOKR、そしてそれぞれの社員のOKRにいたるまで全社員に共有されている。そのため会社のゴールに対する自分たちの役割が明確となり、同じ目的意識をもって円滑に協働できる。