テスラがエコシステム継承の戦略を追求する能力には、2つの要素がある。

●テスラ車の所有者を擁する同社のポジション。換言すれば、強いロイヤルティと多くの可処分所得という魅力的な特性を持つ顧客基盤。

●テスラの創設者であり、ソーラーシティ(住宅用太陽光発電サービスのトップ企業)の会長でもあるイーロン・マスクが持つ、人材を惹き付ける能力。流通チャネルを活気づけ、市場関係者にパワーウォールの将来の大成功を信じさせることによって、スティーブ・ジョブズのような人材を引き込む。

 テスラがこれらの際立った関係性を巧みに活用できれば、強力な競争優位を築けるはずだ。その優位性は、規模、ブランドの強さ、あるいは美しいデザインに直接起因するものではない。また、製品が模倣されても揺らぐことはない。スマートフォン市場におけるアップルのライバルたちを見ればわかりやすい。リソースと名声に恵まれたそれらの有力企業は、アップルとほとんど変わらない製品を提供するまでになっても、市場全体の利益のうちわずかなシェアしか獲得できていない。

 テスラの蓄電池市場への参入は、エコシステム戦略に関する重要な教訓を提供してくれる。企業にとっての課題は、それをいかに実行するかである。


HBR.ORG原文:What Tesla and Apple Both Know About Entering New Markets May 12, 2015

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ロン・アドナー(Ron Adner)
ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネス教授。戦略とアントレプレナーシップを担当。著書に、エコシステム戦略への新しいアプローチを紹介したThe Wide lens: What Successful Innovators See that Others Miss(邦訳『ワイルドレンズ イノベーションを成功に導くエコシステム戦略』東洋経済新報社、2013年)がある。