破壊的イノベーションにはいくつか代表的な条件がある。低価格・低性能の製品で顧客を満足させる/新市場を創造する/低コストのまま迅速な性能改善を図れる/既存の有力プレーヤーから無視されている、等々。そして自動車業界においてこれらを実現しうるのは、小回りの利くゴルフカート型の電気自動車であるという。

 

 電気自動車(EV)、と聞いて多くの人が思い浮かべるのはテスラだ。しかしEVの未来を予見したいなら、他の方面にも目を向ける必要がある。メディアの称賛とは裏腹に、テスラは破壊者ではない(破壊的イノベーションの5つの条件を満たしていない。詳細は本誌2015年8月号「テスラは本当に破壊的イノベーションといえるか」を参照)。そして成長を(ハイエンドからローエンドへの浸透によって)追い求めれば、規模の拡大には困難が伴うだろう(英語記事。コスト削減の難しさ、競合の本格参入などが理由)。

 しかし見るべき所に目を向ければ、EVによって破壊的イノベーションをもたらす会社は存在する。これらの会社は自動車市場の底辺にいて主流からは無視されているが、特定の用途において発展している。まず、顧客が従来型の車の機能をすべては必要としない場合。そして、EVのほうが従来型の車よりも利便性を発揮する場合だ。

 破壊的イノベーションをもたらすEVには2つのカテゴリーがある。低速電気自動車(低速EV)と電気ユーティリティ車(EUV)だ。低速EVは一般消費者向けで、ゴルフカートや全地形対応車(ATV)とほぼ同じ基本構造の上に組み立てられている。EUVには、小型の軽量積載車からフルサイズの重量級トラックまでさまざまなサイズや形態のものがあるが、どれも電池と電動モーターで駆動される。低速EVとEUVは、現時点ではほぼすべての面で従来型の車に劣っている。あまり長距離を走れず、スピードも積載量も限られている。一見するとかなり見劣りし、多くの顧客にとっての最低限の性能基準すら満たしていない。

 しかし特定の用途においては、これらのほうが従来の車よりも便利なのだ。低速EVが米国で最もよく見られる環境である、ゴルフ場や大学のキャンパスを考えてみよう。区画内での短い移動であれば、従来型の車よりも実際に適している。排気ガスも騒音もなく、ゆっくり走行するので歩行者の安全性が増すほか、購入もエネルギーの補給も安価にできる。好天時での短い移動にのみ使用されるので、移動可能距離や快適性の限界はたいした問題にならない。フルサイズの車は、このような用途にはかえって過剰装備だろう。

 同様に、密集した市街地では、小型のEUVはフルサイズの燃焼駆動式の配達車両に取って替わろうとしている。大きいトラックは狭い通りを進むのが困難で、駐車にいたっては不可能に近い。また、停止と発進を頻繁に繰り返していると、セルモーターのような重要部品の寿命を大幅に減らしてしまう。さらに、世界各地の大都市では、街の中心部へのアクセスに対し渋滞税が徴収されるようになっている。

 しかしEUVは小さいので、通り抜けや駐車が容易である。頻繁な停止と発進が必要な環境で能力を発揮し、排気ガスを出さないので渋滞税が免除されていることが多い。移動可能距離、速度、積載可能量は限られていても存在価値は損なわれない。そもそもEUVの利用者は、さほど長距離を移動せず、スピードも上げず、大量の荷物を運ばないからだ。