このような場合に消費者の行動や心理がなぜ生じたのかを把握するためには、消費者自身にたずねるのではなく、観測された結果からその要因を洞察することが必要となる。マーケティングの世界で消費者インサイトが重要視される背景には、上述したような消費者の直観的ないしは無意識的な行動と心理の存在がある。

 従来、マーケティング実務においては、消費者インサイト獲得のために観察調査やデプスインタビューなどの質的調査が多く用いられてきた。さらに、消費者インサイトの獲得を目的とした調査手法も開発されている。ただし、特殊な調査手法を用いなければ、消費者インサイトは取得できないというわけではない。ごく一般的な調査やPOSデータ(注3)などから明らかになった現象の背景を掘り下げて考えることで、消費者インサイトを獲得することも可能である。以下では、そのことを、筆者自身が中心となって実施した調査をもとに説明しよう。

「なぜ」を掘り下げる視点を持ってデータを分析する

 この調査は、20年近く前に、ある大手コンビニエンス・ストア・チェーンとの共同で実施したものである。調査の結果、対象となったコンビニ8店舗における買物客1人当たりの購入点数の平均が約3個であり図表1のような分布となっていることが分かった(注4)。このように、購入点数1個と2個の買物客の構成比が共に約25%であり、3個、4個、5個と増えるにしたがって比率が下がっている。

 スーパー・マーケットなどと異なり、コンビニの場合は一度にたくさんの商品を買う人はそれほど多くない。来店客の多くが1個か2個の商品を買って店を出て行く。図表1の分布も、このようなコンビニの買物行動の特徴を反映したものだ。しかし、図表1の分布は少し特異な形状をしているようにみえる。購入点数1個と2個の構成比がほとんど等しく、3個以上になると数値が大きく減少していく。