連載第2回では、消費者の行動や心理の背後にある「なぜ」を掘り下げ、効果的なインサイトを取得するプロセスを考える。行動や心理がなぜ生じたのか、その本質を突き詰めることで、効果的かつ持続的な施策を打ち出すことが可能になる。

「なぜ」を掘り下げインサイトを獲得する

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守口 剛(もりぐち・たけし)
早稲田大学商学学術院教授。
早稲田大学政治経済学部卒業。東京工業大学大学院博士課程経営工学専攻修了。博士(工学)。立教大学社会学部教授等を経て、2005 年より現職。2012年から2014年の間、早稲田大学大学院商学研究科長。 日本消費者行動研究学会会長、日本商業学会副会長、日本マーケティング・サイエンス学会理事、日本マーケティング学会理事等を歴任。マーケティングに関する研究業績や著書多数。

 マーケティングの世界では従来、消費者インサイトや顧客インサイトという言葉が広く用いられてきた。さらに最近では、ショッパー・インサイト(注1)という用語も一般化してきた。連載第2回の今回は、消費者インサイトをテーマとし、その獲得と活用について検討しよう(注2)

 インサイトという言葉の辞書的な意味は、「洞察」「物事の本質を直観的につかむこと」などであるが、消費者インサイトという用語は一般に、「消費者自身も気づいていない隠れた動機やホンネ」というような意味合いで使われる。本稿では、後述するインサイト獲得のプロセスを考慮し、消費者インサイトを、「観測された消費者の行動や心理がなぜ生じたのかという問いに対する本質的な解」であると捉える。

 消費者の行動や心理には、分析的な情報処理を経て発生するものと、直観的な情報処理の結果生起するものの双方が存在する。例えば、コンビニエンス・ストアや自動販売機で清涼飲料を買うときに、多くの消費者は商品選択にそれほど時間をかけずに直観的に購入するものを決定している。このような直観的な意思決定は、飲料を買うときだけではなく、日常的な買物の多くの場面で行われていると考えられる。一方で、日常的な買物においても、カロリーや栄養を勘案しながら時間をかけて食料品を選択するというような、分析的な情報処理を伴う行動も存在する。

 上で述べた消費者の行動や心理のうち、分析的な情報処理に関連する部分は、質問紙調査などで掴むことが比較的容易だと考えられる。しかし、直観的な行動や心理を一般的な調査手法によって明らかにすることは非常に難しい。直観的な行動について、「なぜこの商品を買ったのか」「なぜこの売場に立寄ったのか」などと消費者に質問しても、「何となく」とか「いつも使っているから」としか回答できないことも多い。