「コンビニの購入点数の分布はなぜこのような形状になるのだろうか」という問いに対して、このときに筆者が得たインサイトは、「コンビニではカゴを持たずに、片手または両手で商品をレジに持っていく買物客が多い。そのため、2個までは無理なく持てるが、3個以上になると持ちにくくなる。」というものだった。

 そこで、調査対象となった店舗における、買物客の買物カゴの保有率、カゴの有無による購入点数の分布などを調べたところ、カゴを利用する買物客は全体のわずか12%であり、88%はカゴを持たずに買物をしていることが分かった。さらに、カゴの有無ごとに購入点数の分布を算出すると、カゴ利用客のうち商品を1個しか買わない人は5%以下、2個買った人も10%に達しておらず、その一方で、6個以上買っている買物客が半数近くいることが分かった。逆に、カゴを持たずに買物をしている人の分布は、全体の分布よりもさらに1個、2個の構成比が高くなっていた。

 もちろん、上記のことは、もともと多くの商品を買おうと思って店にやってきた人がカゴを手に取って買物をした結果だと考えることもできる。しかし逆に、たまたまカゴを手に取った人が、そのことによって多くの商品を買うに至ったのだと解釈することも可能だ。おそらくは、その両方の要素があいまって、上記のような分布になったのだと考えられる。

 上記のインサイトから導かれた購入点数増加のための解決策は、買物客のカゴ利用率を向上させるというものであり、その具体策としてカゴを店舗内の数カ所に分散配置することが考えられた。カゴを利用していない買物客が、買物途中でカゴを使いたいと思っても、わざわざ入口のところまで取りに行く人は少ないと思われる。一方で、店舗内の数カ所にカゴが置かれていれば、買物途中で両手がふさがってしまった人も容易にカゴを取ることができる。このことによって、カゴを手に取る買物客の比率が増加し、結果として購入点数と客単価が向上するということが想定された。

 そこで、このコンビニ・チェーンでは、特定の店舗を対象として、入口に加えて店内のいくつかの箇所に買物カゴを配置するという実験を行った。実験の結果、買物客のカゴ利用率が向上し、1人当たり購入点数と客単価も増加する効果が確認された。この実験結果を受け、このチェーンでは店内の複数個所にカゴを配置するという施策をチェーン全体に導入した。

 上記の事例では、買物客の購入点数の分布からインサイトが導かれた。購入点数の分布は、POSデータや来店客調査から取得することができる。このように、消費者インサイトは特殊な調査手法を使わなければ獲得できないわけではない。観測可能な消費者の行動や心理の背後にある「なぜ」を掘り下げることによって取得することが可能である。肝心なのは、「なぜ」を掘り下げるという姿勢と視点をもって、消費者の行動を観察したり、データを分析することなのだ。