管理職を置かない自己管理型の組織形態、「ホラクラシー」。それは事業戦略やイノベーションにどう寄与しうるのか。欧州の名門IEビジネススクールの教授が、「ザッポスで起こるかもしれない出来事」の仮説を通して説明する。

 

 大企業のリーダーは、「中核事業の効率化」と「新たなプロセス/ビジネスモデルへの素早い移行」のバランスをどう取るか頭を悩ませている。破壊的なスタートアップの脅威を前にしていればなおさらだ。このことは誰もがよく知っている。

 だが、効率性がスタートアップにとっても問題になりうることは、あまり知られていない。ハイエンド市場への拡大を目指す過程で、効率性を重視すればするほどプロセスの柔軟性が失われていくのだ。興味深いことに、一部のスタートアップは独特の革新的な方法でこの問題に対処しつつある。効率性が純粋な新規成長を阻む、という現象への画期的な対処法の例として、ザッポスの新たな組織体制「ホラクラシー」(階層・管理職を廃して組織全体に権限を分散させる、自己管理型の組織)を取り上げたい。

 ザッポスがフットウェア業界で有利な市場ポジションを獲得したのは、衣料品のオンライン小売業者が抱える問題に対して賢明なソリューションを見出したからだ。オンライン販売では、顧客は購入前に目当ての商品を試着できない。この問題を克服するために、ザッポスは送料をなくし、コールセンターに投資した。コールセンターが重点を置いたのは、電話の問い合わせに可能な限り多く、迅速かつ効率的に応答することではない。顧客と強力な関係を築くことだった。顧客は十分な時間を費やして、抱えている問題を説明できる。そしてアドバイスをもらい、1度に複数の靴を注文し、すべてを試し履きし、気に入らない商品を無料で返送できる。これらの機会を提供することで、ザッポスは実質的に顧客の自宅に出店したのだ。

 財務上は、卓越した顧客サービスの提供と送料の無料化によるコスト増よりも、販売量の増加や実店舗の維持不要によるコスト減少のほうが上回ることを見込んでいた。

 それは実現した。この新しいやり方は大きな成功を収め、ザッポスはその適用を拡大。効率性を上げるためにオペレーションを内部化し、範囲の経済のメリットを得るために取扱品目をハンドバッグ、眼鏡類、その他の衣料品にまで広げることでそれを実現した。なお続くトニー・シェイの優れた経営の下、ザッポスの売上高は今や20億ドルを優に超えている。