革新的な企業を立ち上げ、それをアマゾンに売却し、20億ドル超の売上げを実現すれば、起業家にとっては十分だとあなたは考えるかもしれない。だがシェイは満足していない。アパレル市場の規模は米国に限っても約2250億ドルに上る。そこから見ればザッポスの市場シェアは業界全体のほんの一部にすぎず、したがって拡大する余地はまだ十分にある。
だが、どうすれば実現できるのか。前述の「送料無料とリレーションシップ・マーケティング」モデルでは、頭打ちになる。ザッポスの売上高の75%以上がリピート顧客から上がっていることを踏まえれば、このモデルがアピールできる消費者の数には限りがあるからだ。巨大なアパレル市場の他のセグメントにいる、より多くの顧客にリーチするには、さらなるイノベーションが必要になる――このことをシェイは認識している。この点で、ザッポスは基本的に既存の企業と同じ立場にある。すなわち、既存のビジネスモデルに磨きをかけるか、あるいはさらなるチャンスを追求するために現在の効率性の一部を犠牲にするか、二者択一を迫られているのだ。
ホラクラシーへの移行を見れば、シェイは明らかに後者を選んでいる。ザッポスにおいてホラクラシーが意味するのは、あるビジネス上の問題が繰り返し生じる場合、その都度メンバー構成の異なるチームが結成されて問題に取り組むということであろう。その背後には次のような考え方がうかがわれる。ある問題が繰り返し起こるということは、市場で解決されていないニーズがあることを示唆している。したがって、それは取り除くべき非効率性としてではなく、革新的な答えを見つけるチャンスと見るべきである――。
この新しいアプローチがどう機能するかを理解するために、純粋に仮定としてこんな状況を考えてみよう。ある顧客がザッポスの取扱品目の多さを生かし、自分のドレスに合う靴とハンドバッグを探している。そして彼女は高級ブティックの客が受けるようなアドバイスを求めている。ザッポスがより利益率の高い売上げを獲得するには、彼女にどう対応すればよいだろうか。
最初にこの問題が生じた時、ザッポスのあるチームは、顧客にドレスを着てもらいスカイプで電話をかけ直してもらうという案を考えるかもしれない。そうすればコールセンターの応答者が彼女にアドバイスできる。2回目にこの問題が生じた時に別のチームは、ファッションの専門家を採用してアドバイスすることを決定する。3回目にこの問題が生じた時、さらに別のチームがアプリを考案して、顧客が自撮りした写真を前述の専門家に送信できるようにする。またもやこの問題が生じた時に4つ目のチームは、上記すべての機能を統合したプラットフォームを立ち上げる。
このようなアプローチは、単純なソリューションを1つ決めてそれを続けていく手法に比べて、効率的でないことは明らかだ。しかしこのホラクラシー的なやり方によって、1つのビジネス課題に対して数多くのソリューションが生み出される可能性がある。その中にはより創造的なものや大胆なもの、あるいはまったく予想外のものもあるかもしれない。一連の選択肢が出揃えば、経営陣はマーケティングと財務の観点からそれらを個別に、あるいは組み合わせて分析できる。そしてハイエンド市場への正しい道筋と、願わくは破壊的イノベーションを続ける道も見出せる。