ジェイコブスの経営者としてのスタイル

 さて、好循環の大学経営の設計をしたジェイコブスの経営スタイルはいかなるものだったか。有言実行、スピーディな意思決定、正直・誠実、専門家の尊重といったキーワードで語ることができる。

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鳥山 正博(とりやま・まさひろ)
立命館大学ビジネススクール 教授
専門は、マーケティング戦略、マーケティングリサーチ、エージェントベースシミュレーション。国際基督教大学卒(1983)、ノースウェスタン大学ケロッグ校MBA(1988)、 東京工業大学大学院修了、工学博士(2009)。1983より2011まで株式会社野村総合研究所にて経営コンサルティングに従事。 主な著書に『社内起業成長戦略』(マグロウヒル 2010 監訳)「企業内ネットワークとパフォーマンス」(博論 2009 社会情報学会博士論文奨励賞) 「エージェントシミュレーションを用いた組織構造最適化の研究 : スキーマ認識モデル」(電子情報通信学会誌 2009)などがある。

 ジェイコブスはディーンに就任した時に「ケロッグをナンバーワンのビジネススクールにする」と学校の関係者やアドバイザーの皆に大宣言したが、関係者のみならずスタッフにまで嗤われたというエピソードが有名である。しかし、この連載で紹介してきた通り、彼には自ら掲げたビジョンを実現させるための洞察力と知恵があった。さらにこれを長期間にわたって手を緩めずに進める粘り強さも持ち合わせているから実現できたのだ。

 経営スタイルということでは、スピーディな意思決定がジェイコブスのやり方である。「ジェイコブスのマネジメント下では、必要ならばかならず何事も1年以内で実現/実行される、というスピード感があった」と当時のケロッグのスタッフは振り返る。実際、即座の決断力を示すエピソードには事欠かない。

 次に挙げたいのは、自分がやったことでも他人がやったことでも「あれは失敗だった」と正直に評価し、話すところである。印象的であったのは、実務家中心時代からの脱却の頃の話だ。

 条件を満たしていないので辞めてもらった人の中にも、非常に優れた人もいた。この人は、辞めた後、大化けしてベストセラーを連発する教授となったが、ジェイコブスは、「辞めさせたのは失敗だった」とストレートに語るのだ。昨年11月に来日して講演した時も自分が十分に知り得ないことについては「それはわからない」と素っ気ないほどストレートに話す。この正直さこそが、人格的な誠実の表れであり、周りを魅了し、彼に頼まれたら断れない人の輪ができて行ったのだ。

 ケロッグの名を冠することになったのは1979年にジョンL. ケロッグ夫妻からの1000万ドルの寄付を受けたことに依るが、ほかにも多くの寄付により、ビジネススクールというのは成り立っている。ジェイコブス時代には相当額の寄付が集まったというが、それは彼の人格、誠実さがあったからこそであろう。

 また、自分が必ずしも専門家でないことについては専門家を信頼して耳を貸し咀嚼し、自分の判断とし、一旦それで決めるとブレずに実行する。コンサルタントのアレン氏(ブーズ・アレン・アンドハミルトンのファウンダーの一人)の、これからはもはや学部教育の時代ではないという分析をベースに、学部教育から撤退を決めた(まだディーンになる前だが)のもその一例と言えるし、組織行動論の教員の提言に従い、チームアプローチを開始したのも一例である。