マップからもわかるように、アップルはブルー・オーシャンのみを追求しているわけではない。そしていかなる企業も、全社ポートフォリオをブルー・オーシャンで埋めるべきではない。アップル、ゼネラル・エレクトリック、ジョンソン・エンド・ジョンソン、プロクター・アンド・ギャンブルのように多様な事業を擁する企業は、常にレッド・オーシャンとブルー・オーシャンの両方で泳ぎ、全社レベルで(事業ユニットごとではなく)成功を掴みに行く必要がある。
たとえば、かつてiPodが模倣され始めた際、アップルは競争に打ち勝つために幅広いバリエーションをさまざまな価格帯で次々と打ち出した(iPodミニ、シャッフル、ナノ、タッチ)。この戦略によって競合他社を退けただけでなく、みずから創出した海を拡大し、追随者を抑えて最大の利益と成長を勝ち取った。iPodの市場が追随者で溢れかえる頃には、iPhoneを投入して別のブルー・オーシャンをつくり出していた。
アップルにとって前進を続けるうえでの課題は、現在のパイオニアがやがて移行者や安住者になってもポートフォリオを刷新し続けることだ。そうすることで、現在の利益と将来の成長との健全なバランスを維持できる。
マイクロソフトがこの10年近く直面してきたのは、まさにこの課題である。比較的堅調な利益を上げてはいるものの、パイオニア、移行者、安住者の健全なバランスを維持できていない。同社がこのスランプから抜け出すためには、もっとバランスの良い事業ポートフォリオになるよう努力する必要がある。つまり、レッド・オーシャンで競うだけではなく、同社の先端的なブランド価値を刷新・拡大し高めるブルー・オーシャンも創出しなければならない。
企業の幹部はこう自問してみよう。自社の事業ポートフォリオをマップ上に落としてみると、どんな傾向が見られるのか。衰退へと向かっている企業の大多数がそうであるように、安住者ばかりで占められていないだろうか。かつて莫大な利益と成長をもたらしたパイオニアも、いまや安住者となり、新たなパイオニアなくしては自社の成長が停滞する可能性が示唆されてはいないだろうか。それともバランスの良いポートフォリオによって、現在のキャッシュフローだけでなく、収益性が高く力強い成長見通しも期待できるだろうか。
先見の明のある幹部であれば、自社の真の事業は化粧品でも食品でもなく、化学でもコンピュータでもないと承知している。創造こそが事業なのだ。持続的な創造によってのみ、収益性の高い確実な成長を維持できる。企業にとっての命題は、自社の時間と人材を、パイオニア事業の構築と安住者事業の管理それぞれにいかに配分するかである。
HBR.ORG原文:Identify Blue Oceans by Mapping Your Product Portfolio February 12, 2015
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W・チャン・キム(W. Chan Kim)
INSEADブルー・オーシャン戦略研究所の共同ディレクター。同校のボストン・コンサルティング・グループ・ブルース・D・ヘンダーソン講座教授(戦略論および国際経営学)。レネ・モボルニュとの共著にBlue Ocean Strategy, Expanded Edition(邦訳『[新版]ブルー・オーシャン戦略』ダイヤモンド社、2015年)がある。

レネ・モボルニュ(Renee Mauborgne)
INSEADの特別フェロー兼教授(戦略論)であり、INSEADブルー・オーシャン戦略研究所の共同ディレクター。W・チャン・キムとの共著にBlue Ocean Strategy, Expanded Edition(邦訳『[新版]ブルー・オーシャン戦略』ダイヤモンド社、2015年)がある。