マイクロソフトOfficeの登場からウェアラブルが普及し始めた現在まで、テクノロジーは生産性にどう影響し、私たちの仕事や生活を今後どう変えていくのか。エバーノート創業者で会長のフィル・リービンのインタビューを2回にわたりお届けする。
HBR(聞き手:ニコール・トーレス) 仕事での協働や生産性向上のためのツールとアプリは、巷にあふれています。エバーノートもその1つですが、今や1億人を超えるユーザーがいます。まず初めに、エバーノートとは何かを読者に改めて説明してもらえますか。
フィル・リービン エバーノートはワークスペース(作業空間)です。簡単に言えば、作業におけるすべての文書やコミュニケーションを一元管理できるものです。
――マイクロソフトOfficeやAOLインスタント・メッセンジャーのような、初期のソフトウェアがやめてしまった領域でエバーノートは成功したように思われます。そうした既存のツールをどう発展させてきたのでしょうか。
生産性の向上とは何かを考える時、かつてのイメージは非常に物質的な世界観の上に成り立っていました。「コンピュータによる生産性向上」という産業は、30年ほど前にマイクロソフトOfficeが誕生した時に始まったと言えます。当時それらを設計した人たちは、テクノロジーが何を可能にするか、コンピュータが人間にどう貢献するかについて、何も理解していない人々にどう説明すればよいかという大きな課題に直面しました。ですからごく必然的に、設計者たちは物質的・現実的なメタファーを使ったのです――ファイル、フォルダ、デスクトップ、スライド、電話、というように。私たちが培ってきた経験は物質世界に根差していたわけです。
でも今や、そうした物質的な例えで説明する必要のない世代が現れています。むしろそういうイメージは邪魔になってきているのです。ですから我々が取り組んでいるのは、「生産的である」ということの実質的な意味を、過去の概念を模倣せずに新たなイメージ、新たなパラダイムで示すことです。
――生産性向上テクノロジーの起源となっている、古いイメージの例をもっと挙げてもらえますか。そして御社が注力している、より新しいイメージはどんなものですか。
ドロップボックスやスラック(チーム内コミュニケーション支援ツール)は、古いイメージに基づく革新的なアイデアの最後のものでしょうね。今日多くの人は、仕事でこんなふうに考えます。マイクロソフトOfficeで文章を書いて、それをドロップボックスに保存して、それについてスラックで話し合おうと。スラックは多少先進的な人が使うでしょうが、そうでなければメールですよね。こうしたやり方はデスクトップであれば問題ありません。1つの画面で異なるプログラムのウィンドウを切り替えたり、カットアンドペーストなどができればね。
でもこのやり方から先に進むには、統合された体験が必要だというのが我々の大前提です。書くこと、コミュニケーション、コラボレーションが同じ1つのオペレーションの中でなされる必要があるのです。目標を共有する1つのチームによってその一元化が行われれば、より素晴らしい体験になります。特にモバイル、そしてウェアラブルにうまく連携させることが、生産性を上げるためにますます重要になっていると思います。