――それに伴い、御社の重点は変わっていくのでしょうか。
我々はメインストリームのユーザーが望むこと、つまり品質と、体験の継続性を重視しています。これは簡単ではありません。1つわかったことは、まったく新しくて、一時だけ目を引く派手な何かをつくるよりも、既存の製品を磨き込んで少しずつ改善していくほうが、多くの労力を要するということです。その意味で当社は成長しているのだと思います。例えるなら「発育の早い幼児」の段階を過ぎて、「不器用な思春期」に入ったような感じです。我々は外部との接し方について考えるようになり、ユーザー、パートナー、投資家など、自社以外の人々のニーズに配慮するようになりました。これは大きな思考の変化です。
――アップルウォッチ用のエバーノートをリリースされましたね。ウェアラブルは次なる大きなフロンティアだと言われますが、御社の見方はどうでしょうか。なぜ人々はこの方向に向かっているのか、それは仕事のやり方にどう関わってくるのでしょうか。
ウェアラブルは少し人々を惑わせている、という気が実はしています。多くの人が勘違いしていると思うのですが、将来重要となるのは体に装着するモノではありません。ウォッチ端末やスマートグラス自体が未来を拓くわけではないのです。
今後本当に重要となるのは、個々のエンドユーザーの製品体験です。機器中心ではなく人間中心のアプローチということです。ウェアラブルの真の意義は、機器の存在を目立たなくさせることにあるのです。
つまり、アップルウォッチ用のアプリをつくるということは、実際にはアップルウォッチのためではなく、アップルウォッチを付ける「人」のためにつくるのです。このような分け方は奇妙だと思われるかもしれませんが、実は極めて核心的な区別です。アップルウォッチを持っている人はiPhoneも持っています。つまり実際にはウォッチ用というより、ウォッチとスマホの両方に向けてつくることになります。そしてもうすぐ、ウォッチ端末、スマホ、デスクトップ、テレビ、車、冷蔵庫、スマートグラス、その他あらゆるものに対応するアプリにする必要がでてくるでしょう。
やがて人々は、インテリジェント機器によるデジタル世界に囲まれ、どこを見ても何らかのデジタル要素があるという状況に置かれるようになります。そこでは特定の機器が重要になるわけではありません。この概念を主流にするのがアップルウォッチなのだと思います。重要なのはあくまで人間なのです。
――人間の体験ですね。
複数の機器にまたがるユーザー体験です。我々が最初にiPhone用アプリを開発した時、それはあくまでiPhoneのためのものでした。でもウォッチ用アプリとなると、それは使用者のため、そして複数の機器のためになります。これは非常に大きな変化で、我々自身もまだ完全に理解できていません。当社はその最先端にいるかもしれませんが、この概念がデザインの世界に本当に浸透し始めれば、非常に刺激的な大変動が起こるでしょう。
(編集部注:フィル・リービン氏は2015年7月にCEOを辞任し会長に就任)
※後編に続く(2015年10月5日に掲載予定)
HBR.ORG原文:Evernote’s CEO on the New Ways We Work May 28, 2015
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『ハーバード・ビジネス・レビュー』のアシスタント・エディター