――私たちはフェイスブックやツイッターやグーグルでログインしてから、他のアプリやアカウントにサインインする、ということが多いですよね。先ほどおっしゃったスラックは、グーグルDocsやトレロ(タスク管理ツール)と連携しています。

そこでお聞きしたいのですが、新たなツールを開発する時に、統合はどれほど重要なのでしょうか。すべてのサービスが他のサービスに連携するようユーザーが望むのであれば、御社のビジネスにとっては大変ではありませんか。

 たしかに、それは市場の初期段階において、初期採用者にとっては重要かもしれません。私のようなマニアックな人間は、何でも1つにまとめていじり回したいからです。しかしメインストリームのユーザーにとっては、さほど重要ではないと思います。

 こうしたテクノロジーには総じて、最初は複数の優れた体験を寄せ集めねばならない時期があります。先端的な初期採用者たちがそれを実行し、ある時点から、非常に洗練され使いやすいインターフェースが登場します。それに応じてワークフローが標準化され、すべてはうまく統合された体験へと向かっていきます。こうした現象は数十年にわたって繰り返されてきました。誰もが自分の一番好きなワープロソフト、データベース、表計算ソフト、メールソフト、プレゼン用ソフトを集めて使っていた時期がありました。

 市場の初期段階ではこの種のソフトが大量にあったものです。ハーバード・グラフィックス(プレゼン)やクアトロ(表計算)、ワードパーフェクト(ワープロ)とかね。その後、これらの市場がメインストリームへと移行し始めた頃にマイクロソフトが登場し、「Officeさえあればいい」と言ったわけです。現在も、同じような状況にあるのだと思います。さまざまな(生産性向上)ツールがあふれ、初期採用者でオタクである私のようなユーザーはそれらが大好きで、いじり回したい。しかしやがて、少数の支配的なプレーヤーのみがメインストリームのユーザーに向けて最良の体験を提供するようになるでしょう。

――つまり初期採用者と、「皆が使っているものを使おう」というメインストリームのユーザーの間にはギャップがあるということですね。エバーノートのリリース以降、御社はユーザー自身とその行動様式の進化を見てきたと思います。そのギャップは少しは縮まったのでしょうか。他に大きな変化はありましたか。

 たくさんの興味深い出来事が起きています。その1つは、(これだけユーザーが増えても)エバーノートはまだ初期採用者の段階にあるということです。それは世界中の初期採用者の数が急激に増えているということです。とてつもなく、爆発的に拡大したのです。なぜなら、初期採用者になるためのハードルが昔にくらべ非常に下がっているからです。かつて他に先駆けて新製品を導入するためには、かなりの苦労と犠牲に耐える覚悟が問われたものです。新製品の環境を構築し、多くのお金を投じ、他の製品が欲しければそれを見つける方法から模索する必要がありました。そのような苦労は今では格段に少なくなっています。基本的にほぼ誰もが、好きな分野や情熱を抱ける物事において初期採用者になれるのです。

 たとえばバードウォッチングを愛する人は、バードウォッチング関連のアプリやテクノロジーの初期採用者になれるわけです――たとえ他の分野では完全なメインストリームに属していても。ですからエバーノートのユーザーが1億人以上いるといっても、その多くはまだ初期採用者なのかもしれません。さまざまなタイプの初期採用者が、世界中に何千万人もいるのかもしれません。ではメインストリームがないのか、というとそうではありません。初期採用者の市場がたとえば数百万人の単位であれば、メインストリームは10億人、20億人といった数になるのです。

 それほど膨大な数の人々に実際に使われるようになれば、状況はかなり変わってきます。エバーノートは今、まさにその転換点にあります。巨大な初期採用者層へのリーチを経て、メインストリーム層への浸透がこれから始まろうとしています。