「1日200回、1回5秒」という頻度でユーザーの生産性を高めるには、どうすべきか――。エバーノートはアップルウォッチ用アプリの開発で、このことを念頭に置いたという。同社創業者で会長のフィル・リービンが語る生産性向上ツールの未来、後編。

 

HBR(聞き手:ニコール・トーレス) 御社がアップルウォッチ用のエバーノートの体験をデザインした時、具体的にはどんな変更を考慮されたのでしょうか。

 たくさんの変更がありました。たとえばウォッチ端末について人々が考えるわかりやすい違いは、画面が小さくなったことですよね。でも実は、画面の大きさはそれほど関係ありません。本当に重要なのはセッション(一連の作業を始めてから終えるまでのプロセス)の時間です。デスクトップPCやノートPCであれば、セッションの長さはだいたい2時間程度でしょう。デスクトップでマイクロソフトWordを使っている人は通常、1度に2時間ぐらい作業をします。マックでエバーノートを使っている場合、1セッションの平均は約40分程度でしょう。

 40分や1時間、2時間といった時間があれば、ファイルやフォルダ、組織化や構造、あるいは他のアプリなどについてユーザーに考えてもらえます。でもスマホでは、セッションの長さは5分程度に縮まります。それがおおよその平均なのです。

 ただし、そのセッションは1日に1回ではなく20回ほどになります。「1回に5分、1日に20回」という頻度でユーザーの生産性をどう高めるか。とりあえずファイルについては考えなくていいでしょう。5分以内に処理できないコンセプトについては忘れるべきです。

 必要なのは、物事がいっそう予測可能であるようにすることです。システムがユーザーの要望を先に予測しなければなりません。ウォッチ端末になれば、セッションの長さは5秒にまで短くなります。それが日に20回ではなく、200回にもなる。1回5秒、1日200回という頻度でユーザーの生産性を高めるにはどうすればいいでしょうか。あるいはビデオゲームであれば、1回に5秒でどうユーザーを楽しませるか。これまでとは大きく変わります。

――そもそも、それは可能なのでしょうか。

 完全に可能です。ただ難しいだけです。もし私がゲームメーカーで、たとえばXboxのHaloのようなゲームをつくっているなら、大型モニターの前にいるユーザーを1回に数時間楽しませることが課題になります。それを1回5秒へと変えるのは非常に大ごとです。しかし開発者にとって今までと大きく違うのは、人はもはやすべてを1つの決まった機器で行うのではないということです。マック用のエバーノートの開発では、すべての機能をマックの仕様に合わせることが前提でした。でもアップルウォッチでは、すべての機能を詰め込まないようにしました。5秒以上かかる作業はiPhoneでやればいいからです。アップルウォッチを持っている人はiPhoneも持っていますからね。

 ですから、より洗練された人間中心のデザインにするためにはこう考えればいいわけです。5秒という時間に最も適した行動は何だろう? それをウォッチ端末でやってもらえばいい。5分間に適した作業ならばスマホで、1時間を要する作業はPCでやってもらえばいい。そのようにデザインされたものは、まだありません。このムーブメントは今まさに生まれようとしています。