――あなたは以前に、マイクロソフトWordの機能がいかに印刷に根差したものかをお話しされましたね。今日の人々は印刷という行為自体をしなくなっています。テクノロジー企業が付いていくべき大きな変化は、他にもありますか。

 はい。働き方が全面的に変わっていると思います。仕事だけではなく生活全体の大きなトレンドとして、あらゆる物事が簡略化(snackified)しています。何かをやる時間の間隔がますます短くなり、頻度が増えているのです。これはほぼすべての物事について言えることです。動画を見る時もそうです。1時間の番組をいくつか見続けていたような頃に比べて、今では短いものをより頻繁に見るのが普通になっています。

 もちろんそれに当てはまらない場合もあります。視聴時間を自由に選べるようになったため、たとえば『ハウス・オブ・カード』を何時間も見続けるような習慣(binge watching)も生まれました。13時間連続で見るような人も増えましたが、とはいえ1回当たりの視聴時間は短くなっていて、その頻度は増えています。これはエンターテイメント全体においても、コミュニケーションにおいても同様で、友だちとのやり取りなどもそうです。親友と週に1度、電話で1時間半話すかわりに、おそらくはテキストメッセージでやりとりするはずです。つまり何でも簡略化している。たとえば食べ物に関するコンテンツにしてもそうです。かつてはレストランの紹介が主だったものが、今では個々のメニューに注目されるようになっています。

 仕事においてもそうです。たとえばある資料をつくるために、毎日自分の会社のデスクに何時間も座って何週間も費やすことはしません。出来上がった資料を印刷して誰かに送付したりメールで送ったりして、相手がそれに目を通してコメントを返信してくるのを何日か待っている――こうしたやり方はもう過去のものです。今では数分単位で進捗を相手に見せ、即座にフィードバックをもらって変更します。それを職場のデスクではなくどこからでもやる。仕事も簡略化しているのです。もちろん印刷もしません。概念そのものが変わったのです。実際、人間の生活において最も簡略化が顕著なのは仕事かもしれません。

 それに対する不満もあるでしょう。簡略化が物事をいかにダメにしているか、いくらでも指摘することはできます。ですが人間は、生活に変化がもたらされるたびに不満を表明してきました。

 変化を歓迎することもできるはずです。このように変わったのは、自分たちの脳が自然にそう望んだからだ、と。それによって人はより幸せに、より生産的になるのですから喜ばしいことでしょう。それを受け入れて製品に反映させ、できるだけ良いものをつくるべきです。

――最後にお尋ねします。数年前にモレスキンと提携し、紙とデジタルのハイブリッド型ノートをつくりましたね。人々が筆記用ノートからウェアラブルに移行し、集中力を注ぐ時間も短くなっている昨今、デジタルの仕事空間において紙の居場所はあるのでしょうか。

 あると思います。紙によって体験の選択肢が増え、体験の質も向上します。人々はより質の高い体験に惹きつけられます。メモを取るという行為に関する最も優れた体験が、質の良い紙とペンで実際のノートに書くことであれば――その長所としては秘密を守れる、音が出ない、数秒でできる、などがありますが――人々はそれを選ぶでしょう。その筆記体験はテクノロジーによって、PCへの入力と同じレベルにまで強化されます。したがって紙の存在は、それが素晴らしい体験を提供する限りにおいて、多いに役立つと思います。印刷をするための紙はもはや不要です。ファックスや何かを記入する時も、紙でなくてもいいのです。

 法人用ソフトウェアを考えてみましょう。今のソフトのほとんどは――数年後には消えているでしょうが――「入力フォームを埋める」ことが必要です。あと5年以内にどのソフトやメーカーが無くなっているかを知る簡単な方法は、入力フォームがあるかどうかです。今から10年後には、その作業はなくなっているでしょう。

――納税申告書はどうでしょうか。

 それが最後のものになるでしょうね(笑)。最も変わるのが遅いのは国税庁かもしれません。それでさえ、納税申告ソフトが自動でやってくれて、ユーザーにいくつか質問するだけでレシートなどに自動的に関連づけてくれるようになるでしょう。

 実際の記入用紙であれPC画面上の記入フォームであれ、それを埋めるのは人間の脳が望むことではありません。非常に人間と相容れない作業であり、テクノロジーの限界を象徴するものとして、一時的に数十年存在したものにすぎなくなります。

 その限界はもはやなくなったので、じきに廃れるでしょう。ですからモレスキンノートと国税庁の記入用紙との間に共通するものは何もありません。両方とも紙とペンを使うものでも、体験がまるで違います。上質なものを好む人にとってモレスキンは素晴らしい体験で、記入用紙を埋めるのは誰にとっても苦痛です。一方は残り、一方は廃れるのです。

(編集部注:フィル・リービン氏は2015年7月にCEOを辞任し会長に就任)

※前編はこちら

 

HBR.ORG原文:Evernote’s CEO on the New Ways We Work May 28, 2015

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ニコール・トーレス(Nicole Torres)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のアシスタント・エディター