――なるほど。ところで、私は仕事とプライベートを区別したいタイプの人間なので、仕事用と私用のメールアカウントを別にしています。しかし複数の機器間でシームレスな体験を提供するとなれば、仕事とプライベートの境界は曖昧になりすぎるとは思いませんか。

 私は、誰もが仕事とプライベートを分けたいと望んでいるわけではないと思っています。なぜなら、それらは頭の中では別々ではないからです。知識労働者であれば、脳内で両方が交じり合っています。公私のさまざまなことで常にストレスを感じ、常に両方のことを考えています。仕事でも私生活でも生産的になれれば、喜びと満足を味わいます。

 ですから脳内では区別されていません。あなたという1人の人間にとって、仕事とプライベートの両方が同じように大事なのです。人々が「区別したい」と言う時、その本当の意味は、たとえば誤って情報を流出してしまうような事態を避けたいということです。自分の個人情報が誤って同僚に見られてしまうのは嫌ですよね。あるいはその逆もそうです。

 これは、優れたデザインのあり方の問題です。ユーザーに混乱を生じさせず、コントロールできているという感覚を与える必要があります。何かを誤った場所に置いたり漏らしたりすることが起きないようにする。これは非常に難しいデザイン上の課題です。

 この問題をユーザーの手に委ね、あとはあなたの責任で区別する方法を見つけてください、とするほうがずっと簡単ではあります。物事をコントロールできている、と感じさせるデザインを我々の責任でつくるのは難しいですが、最終的にはそれが必要です。完全にはできません。いろんなものをもっとわかりやすくする余地があり、私生活と仕事を適切に管理したいという要望をもっと満たす必要があります。

 この点について当社は日々前進していると思います。あなたの質問は核心を突いているかもしれません。ウェアラブルが公私の境を曖昧にするというより、良いデザインであることが大きく問われるということです。公私をただ区別すれば済む話ではなく、たとえば片腕には仕事用のウォッチを、もう一方の腕にはプライベート用のウォッチをするわけにもいきません。これはより優れたデザインが問われる問題で、難しいですがエキサイティングなことです。

――デジタル製品のもう1つの大きな課題として、人々は無料のものを求めるということがあります。御社も無料をベースにしたうえで、ユーザーに支持される素晴らしい製品を販売して利益を得ています。フリーミアム・モデルですね。基本サービスは無料で、アップグレード版のサブスクリプションもあり、ビジネスユーザー向けにはさらにプレミアム版があります。このやり方の効果について、何か発見はありましたか。

 このモデルはうまくいっています。人々はデジタル製品が無料になることを望んでいるわけではないと思います。この点は今後の数年で、ウェアラブルによってますます明らかになっていくのではないでしょうか。人々が製品に期待するのはまず何よりも、良いもの、素晴らしいものであることです。それが無料でも成立する場合に限り、人々は無料のほうを選びます。しかしこれまでは、良い製品は広告があるために無料だったわけです。

 このモデルはもはや成立しません。そもそも、ウォッチやスマートグラスで「広告付きの素晴らしい体験」などありません。実現不可能なのです。もうすぐ、(広告という)邪魔なもの、しつこいもの、目的とは違うことをさせようとするものを通して収益を得ようとする製品は、良い製品とは見なされなくなります。それは最も重要な原則、つまり人々は「無料」よりも「優れた体験」を求めているという原則に反するからです。

 それが有料で手に入るなら、人々は喜んで支払う気になるでしょう。実際、ユーザーから直接料金をいただくエバーノートの収益モデルは今後ますますやりやすくなると思われます。この点については当社は歴史の正しい流れに乗っていると思います。