絵の印象は見る人によって、まったく違う

 このワークショップは、元々「絵はもっと自由に描いていい」ということを伝えるために子供向けに考案されたプログラムで、それを大人向けにアレンジしたものです。現在では「Vision Forest」という組織変革アプローチのプログラムのひとつとして、アート教育の企画・運営やアーティストのマネジメントを行う株式会社ホワイトシップと、ビジネスコンサルティングサービスの株式会社シグマクシスが共同で企業向けに提供しています。本誌の連載「リーダーは『描く』」では、両社の全面協力をもとに、実際にワークショップを実施してただき、その様子を記事化しております。

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「KUNI」さんこと、谷澤邦彦さん

 さて、各自画材がセッティングされた席に着くと、穏やかで柔らかかった雰囲気もさすがに硬くなりました。慣れない「絵を描く」という行為に対する戸惑いでしょうか。でも、このワークショップは突然絵を描くのではなくて、「絵の鑑賞」から始めます。これは自分の五感をほぐしながらウォームアップする時間。このプログラムの開発者の一人でもある、アーティストの谷澤邦彦(KUNI)さんの作品を鑑賞し、ポストイットに感じたことを素直に書いて、絵のまわりに貼っていきます。そして、それをKUNIさんが読み上げていきます。

 今日最初に読み上げられたコメントは、「試合で負けたときの私」。飛び入り参加の田代さんのストレートな感想に、会場は思わず笑いに包まれました。さらに「先が見えなくて、どうしたらいいかわからない、試合直後のようなイメージが浮かびました」という言葉に、一同う~んと唸ります。

 次に紹介されたのは「迷い」という感想です。書いたのは同じく飛び入りの浅見さんです。「中心は渦なのに、上のほうは波のように見えました。形がひとつじゃないところに、迷いのようなものを感じました」

 世界柔道から帰国してまだ日が浅く、金メダルを獲得できなかった2人。その心境が絵の鑑賞にまで投影されていたことに、アスリート魂の一端が垣間見えます。

 一方、佐藤さんの「底辺が右側に感じる」というコメントは、絵の右側の辺を下にすると面白そうだ、というものです。これにKUNIさんが反応します。実際に絵の向きを90度変えてみると、まったく異なる印象の絵に変わりました。参加者からは驚きの声が上がります。

「これが視覚バイアスです」

 KUNIさんによると、人間の脳には「1度そう見えるとそのようにしか見えない」という仕組みがあるそうです。そこから自由になること。これも、今回のワークショップで体験してもらいたいことのひとつです。