「イメージじゃなく、絵を描いちゃうんだよなあ」

 絵の鑑賞を終えて、参加者の表情がほぐれてきたところで、次は自分が描く絵の内容を言葉でワークシートに記入していきます。テーマは「働くうえで大切にしていること」。仕事に対する「思い」をイメージしていくステップです。シートを受け取るなり、スラスラと書き始めたのは坂根さんと谷本さん。考え込んでペンが止まる前田さん、岩谷さん、佐藤さん。参加者の反応はさまざまです。

 ワークシートを埋めたら、いよいよ「描く」のスタートです。このワークショップでは、パステルという油分のないクレヨンのような画材を、正方形の色紙に指でこすって塗りこめながら、絵を描いていきます。

 最初に動き始めたのは、やはり坂根さんです。並べられた12色の色紙の中から黄緑色の用紙を手に取り、席に座るとすぐさまパステルを紙に乗せ、指でこすりはじめました。坂根さんがビジネスの現場で発揮する決断の早さと行動力は、絵を描くという行為にも表れるようです。

「何も降りてこない……」

 そうつぶやいたのは、ピンク色の用紙を選んだ前田さんです。緑色の用紙を目の前にした佐藤さんも、オレンジ色の用紙を選択した岩谷さんも、なかなかパステルに手が伸びません。が、おそるおそるパステルを紙に乗せ始めると、何かが吹っ切れたようにそれぞれ手が動き始めました。

 前田さんは時おり頬杖をついて考え込み、何かをイメージしてはパステルをこすり、紙を目の高さに掲げて眺める、という動作を繰り返します。何か楽しげなイメージが浮かんだのでしょうか、岩谷さんは笑みを浮かべつつ、紙の向きを頻繁に変えては、繊細な指の動きで丁寧に描き込んでいきます。佐藤さんは表情ひとつ変えず淡々と描き続けます。パステルが紙に触れる音と、指で紙をこする音だけが響きます。

 黙々と描いていた坂根さんが、突然大きな声で言いました。

「イメージじゃなく、絵を描いちゃうんだよなあ」

 確かに、ほかの3人は抽象的な絵を描いていますが、坂根さんの紙には、静物画とも風景画とも呼べるような、「かたち」あるものが描かれています。

「いいんですよ、絵を描いていいんですよ。絵を描くワークショップですから」(笑)

 KUNIさんが優しく声をかけますが、坂根さんは続けます。

「結局、考えていることが具体的だと、ダメだってことがわかってきたな」。

 KUNIさんは苦笑い、手を動かし続ける参加者からも笑い声が漏れます。