こすりつづける谷本さん!
一方、すぐに描き始めた坂根さんとは対照的に、最後までパステルを手にとらなかったのが谷本さんでした。
谷本さんが選んだのは真っ赤な紙。その紙を、まず5本の指全体で円を描くようにこすり続けています。首を少しだけ左に傾け、目は虚空の一点を見つめています。紙を温めながら、何かを懸命に考えている。そんな姿に見えます。
谷本さんがようやくパステルを握ったのは、ほかの人が描き始めてから5分ほど経ったころでした。出遅れた分、ほかの人より大胆に、何かのイメージを描き進めている感じです。が、しばらくたつと、再び紙を指全体でグルグルとこすり始めました。手の動きは描き始める前と同じですが、表情は何かに念を送るような顔つきです。
「(谷本)歩実の絵は、だんだん変わってきたなあ」
隣で描き終えつつある坂根さんが、谷本さんの絵を見て、思わず声をあげます。
「ストーリーがあるんですよ、私の絵には」
谷本さんはニコっと笑ってそう言うと、ほかの3人の参加者が次々に描き終えていくのも気にせず、色を乗せてはこすり続けました。谷本さんがパステルを置いたのは、坂根さんが描き終えた10分後のことです。KUNIさんも「スゴかったですね」と感嘆した谷本さんの絵、そのストーリーとはいったいどのようなものだったのでしょうか。