ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのアダム・グラントと私は、あるプロジェクトで、従業員の働きに感謝を示すことが生産性に影響を与えるかどうかを検証した。すると、結果はイエスだった。

 アメリカのある公立大学で行った対照実験では、卒業生から寄付金を募る資金調達係41人を、「感謝される」グループと「感謝されない」グループに振り分けた。前者は年次寄付部門の責任者の訪問を受け、こう感謝の言葉をかけられた。「頑張ってくれてありがとう。あなたたちの大学への貢献に心から感謝します」。かたや後者は、自分の実績に対しては毎日フィードバックを受けたが、責任者から感謝の言葉はもらえなかった。

 その結果、感謝されたグループがその後の1週間でかけた電話の回数は、平均50%アップした。責任者から謝意を示されたことで、社会的価値への自覚(社会的に認められたという気持ち)を高めたからだ。

 ハーバード・ビジネス・スクールのポール・グリーン、ノースカロライナ大学のブラッドリー・スターツと私が共同で取り組んだフィールド実験では、生産性に対する感謝を誰が示すかによって、その効果が異なるかを検証した。実験場所は大手食品会社が所有するカリフォルニア中部の畑である。そこでトマトを収穫する従業員180人を3つのグループに無作為に振り分けた。対照群、「内部受益者から感謝される」組、「外部受益者から感謝される」組である。

 後者2つのグループには、収穫期の途中で短いビデオを見せた。内部受益者(畑で働く他の従業員など)と外部受益者(顧客)が、収穫係の仕事が自分たちにどれだけ役立っているかを語り、その働きぶりに感謝する内容だ。そして、全収穫期を通じての各グループの日々の生産性(1時間当たりの収穫トン数)を測定し、ビデオを見せる前の期間と後の期間で比較した。

 その結果、外部受益者から感謝の意を示されたグループには、生産性に顕著な向上は見られなかった。ところが、内部受益者から感謝されたグループは、1時間当たりの収穫量が対照群よりも7%近く上がった。自分の仕事が誰の役に立っているか容易に思い描けるため、やる気が高まったのだ。

 リーダーは、特定の労働条件や方針が従業員のパフォーマンスにどう影響するかもテストできる。

 スタンフォード大学のニコラス・ブルームの研究チームは、ナスダックに上場し従業員1万6000人を擁する中国の旅行会社シートリップ(Ctrip)で、在宅勤務にまつわる無作為実験を実施した。自宅で勤務してもよいと申し出た従業員を、在宅組と職場組に無作為に振り分け、彼らのパフォーマンスを9ヵ月間にわたり観察した。

 その結果、在宅組の生産性は13%向上し、仕事への満足度が高まり、離職率も低下した。実際に在宅勤務者の自然減数は、対照群と比べて50%も低かった。シートリップは、在宅勤務によって、従業員1人当たりで年間2000ドルの経費を削減できると見積もっている。同社はその後、実験に参加した従業員に対して、あらためて在宅勤務の選択肢を与えた。すると、在宅希望者の生産性は22%向上した(詳細はこちらの翻訳記事も参照)。

 業務・マネジメントの慣行に関する無作為対照実験は、どんな場合でも実行できるとは限らない(実験可能な場合は、こちらのHBR論文〈未訳〉で紹介している5つのステップを参照してほしい)。しかしその有効性は、医学研究や政府の政策、教育などさまざまな分野で実証されている。

 たとえばある実験では、宿題を提出しない中学生・高校生の保護者に、個人的にメールでそれを知らせるとどうなるかを検証した。その結果は、保護者がメールを受け取らなかった生徒に比べて宿題の提出率が25%高くなり、メールを受け取った保護者が教師に連絡してくる頻度は2倍になった(英語論文)。

 無作為実験をホワイトカラーやブルーカラーの仕事に適用すれば、同じように効果を得られるだろう。実験によって、リーダーは最良の慣行をより迅速かつ低コストで見つけられる。生産性とイノベーションのみならず、仕事への満足度に寄与する慣行も明らかにできるため、会社と従業員の双方にとってメリットがある。

 これから新しい慣行や方針を検討する時、あるいは既存のやり方が狙いどおりの成果を上げているか疑問を抱いている時には、当てずっぽうにやるのではなく、実験することをおススメする。


HBR.ORG原文:Companies Like Amazon Need to Run More Tests on Workplace Practices August 20, 2015

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フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)
ハーバード・ビジネススクール教授。経営管理論を担当。著書に『失敗は「そこ」からはじまる』(ダイヤモンド社)がある。