これまで挙げた原則が、すべて実践されている事例を紹介しよう。カナダのオンタリオ州にある自治体財産評価法人(MPAC)は、同地域で500万件以上の不動産の鑑定・分類を担う非営利団体だ。MPACは数年前、予算をもっとうまくやり繰りする方法を見つける必要に迫られていた。またリーダーたちは、不動産税納税者と地方自治体に提供するサービスを向上させたいと思っていた。
これらの目標を実現するには、従業員の能力を高める必要がある。より迅速に行動し、顧客とステークホルダーのニーズへの理解を深め、それにうまく応えられるようになること。そして業務をより秩序立てて実行するために、具体的な目標、明確な業務計画、厳密な成果追跡なども必要だ。
代表者は幹部会議を招集し、改善活動を策定した。それは多数の課題に一気に取り組むための包括的なプログラムではなかった。少数の短期プロジェクトによって、素早く成果を上げ、新しい業務の進め方を編み出し、それを組織全体に展開することを目指した。
そこでまず、優先度の高い2つの分野に焦点を絞る。土地の分割(不動産の面積変更、使用目的の変更、またはその両方)と、マンションの評価(所有者が物件を取得した際の価値計算)である。
土地分割チームが立てた目標は、100日以内に各出張所で1日に扱う区画数を50%増やすことだ。またマンションチームの目標は、トロントの高層マンション10棟の開発プロジェクトで、所有者の入居から30日以内に評価を完了することとした。なお、以前は評価を終えるのに平均約600日もかかっていた。
取り組みの結果、両チームとも目標を上回った。土地分割チームは1日に扱う区画数を175%増やし、マンションチームは10棟の評価を27日で終わらせた。両チームとも、担当者たちは労働時間を増やしたのではなく、より賢明なやり方をした。彼らが学んだのは、目標の明確化、上級幹部をうまく巻き込むこと、リソースの集め方、そして権力ではなく影響力によるリーダーシップだ。これはMPACのような公的機関では特に重要である。さらに外部のステークホルダーとよりうまく協力する方法も見出した。
MPACはこれらの成果で従業員の自信を高めると、新たなプロジェクトを他の地域や事業分野でも次々と実践していく。それから数年が過ぎた現在、こうしたプロジェクトはMPACにおける業務改善プログラムの根幹となり、商品開発やソフトウェア販売、組織再編、後継者育成計画などの広範な分野で活用されている。どのプロジェクトも通常、チームとしての業績目標と個人の能力開発目標が掲げられる。
マネジメント能力の向上と収益の増加、両方を実現できればリーダーにとっては一石二鳥となる。そして実際のプロジェクトによってこそ、2つの恩恵を得ることができる。人は厳しいスケジュールで重要な結果を出すよう迫られると、学んで成長せざるを得ない。自分が思っていた以上のことができると気づき、それがさらなる努力への原動力となるのだ。
HBR.ORG原文:How to Design Work Projects for Maximum Learning July 22, 2015
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シェーファー・コンサルティングのパートナー。業務改善と変革マネジメントの専門家。