絵は自由と自己責任で描けばいい

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ホワイトシップの長谷部貴美さん

 ホワイトシップ長谷部貴美さんの進行により、ワークショップは絵の鑑賞から始まりました。絵を描くことだけでなく見ることからも遠ざかっていた参加者にとって、格好のウォーミングアップになったようです。その後、同じくホワイトシップ谷澤邦彦(kuni)さんが、参加者にこんな質問を投げかけました。

「人類は、いつごろから絵を描いていたかご存知ですか」

 しばしの沈黙のあと、星野さんが「メソポタミア文明?」と反応します。

「残念。5千年前に始まったと言われる文明よりもずっと前のことなんです。洞窟画をご覧になったことがあるでしょうか。4万年ほど前の洞窟画も残っているんですよ」

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kuniさん

 4万年という途方もない年月に、参加者は感嘆の声を上げます。

「当時は文字も数字もありません。おそらく、上手に描こうという発想もなかったと思います。そして、当時から現在まで人間は絵を描くことを放棄していません。なぜ人間は絵を描き続けてきたのでしょうか。そんなことにも思いを馳せながら描いてください」

 kuniさんはさらに続けます。

「昔は石を砕いてそこに水を混ぜたり、場合によっては獣の脂を混ぜたりして絵の具のようなものをつくり、描く道具がないので代わりに指を使っていたそうです。今日も筆は使いません。指を使って描いていただきます」

 使うのはパステルという画材。kuniさんは紙にパステルで色を塗り、それを指でこすり始めました。立ち上がってkuniさんの横に行ってのぞき込む星野さんは、好奇心の塊のようです。

「パステルの粉を指で紙にすり込んで色をつけていくイメージですね。これを『こすりんぐ』と言います」

 一瞬の静寂。参加者にはkuniさんのジョークは伝わらなかったようです。

「色の使い方、絵の描き方は自由です。どんな絵になってもクレームは受け付けませんので、納得できるように描いてください。基本的に、絵は自由と自己責任なので」

 参加者から笑いが漏れます。

「正方形の紙を使うので、途中で紙の向きを変えると印象が変わります。そんなことにもチャレンジしてみてください」

 そう言うと、kuniさんはちょっとトーンダウンしました。

「さっきの『こすりんぐ』と対になる言葉があるんですけど……」

 こすりんぐで失敗しているだけに、kuniさんは控え目です。

「『まわしんぐ』っていうんですけど……」

 こんどは大丈夫です。参加者から笑いを引き出すことに成功しました。これを合図にワークシートが配られ、この日のテーマが発表されました。

「働くうえで大切にしていること」

 参加者は、ワークシートにそれぞれの思いを書き込んでいきます。ひと通り書き終わったころで、kuniさんが宣言します。

「時間は40分から1時間ぐらい。かなり長いですが、集中するとあっという間です。とはいえ、みなさんは久しぶりに絵を描くわけですから、楽しみながらも産みの苦しみをねじ伏せて、絵と格闘してください!」

 星野さんが「ねじ伏せリング!」という言葉で場を和ませると、いよいよ星野リゾートの「描く」がスタートしました。当初の緊張は、どうやら消え去ったようです。