それぞれの格闘のプロセス
並べられた色とりどりの紙の中からすぐに水色を選択した川村さんは、紙に向き合うや白いパステルでらせん状の線を描き始めました。阿部さんも川村さんに続いて青い紙を手に取りますが、席に座って紙を前に考え込んでいます。
すぐに紙を選んだ2人とは対照的に、星野さんと永田さんは紙の色が決まりません。熟考の末、星野さんがグレーを選んで席につきました。しかし、すぐに描き始めることはできないようです。永田さんはなおも動きません。およそ3分後、ようやく黄色い紙を手に取りました。それとほぼ同時に、阿部さんがようやく白いパステルを握り、紙の中央に円を描いていきます。
ひたすら無言で描き続ける4人。会場には、パステルが紙にぶつかる硬い音と「こすリング」のかすれた音だけが響いています。
15分後、4人の絵は少しずつ変わり始めました。川村さんは、らせん状の線の中にさまざまな形をした色とりどりの「塊」のようなものを無数に描いています。阿部さんは中央の白い円から、四方八方に足のようなものが伸びています。星野さんは右隅につけた青い色が紙全体に広がっていて、地の色のグレーは中央部分に丸く残っているだけです。永田さんの構図は変わっていませんが、縁取りの色が緑から青に変わっています。
しばらくすると、それぞれの絵が大きく動き始めます。阿部さんの絵は、中央の白に色が入り、中央を貫く動脈のような線が入りました。ちょうど「人」という字のような形状です。星野さんの絵は、真ん中に残ったグレーの部分が白に変わり、そこを基点に左下に向かって広がっていく図柄が描かれました。それはやがてアメーバのような形に変化していきます。
永田さんの絵は中央の部分だけ黄色のまま残し、波線で囲まれた部分がオレンジで彩られた花のようです。と思いきや、永田さんは消しゴムを指や手の平をつかって転がしたり、消しゴムで紙を叩いたりして、パステルの色に微妙な濃淡をつけています。川村さんの絵だけは、らせんの中の塊がよりカラフルになってはいますが、ほかの3人ほど大きな変化はありません。描きたいもののイメージが明確だったということでしょうか。
約45分後、参加者の「描く」時間が終わりました。専用のスプレーをかけてパステルを紙に定着させ、額に入れて完成です。そこまで、ほとんど私語もなく全員が描くことに没頭していました。額に入った絵を見ながら、星野さんがふと漏らします。
「こんなに集中したことはなかったなあ」
参加者に控え目な笑いが広がります。阿部さんが星野さんに続きます。
「いかに仕事に集中していなかったかってことですねえ」
爆笑のなか、ワークショップはそれぞれが描いた絵の鑑賞会に移っていきます。4人の絵は、いったいどのように仕上がったのでしょうか。