いま再び注目すべき「バリュー・フォー・マネー」

 我々が今日直面している経済状況が未曽有のものであることは言うまでもない。ところが、企業経営者への助言の数々は、2000年の不況時に言われていたこととまったく同じである。

 とりわけ欧米企業では、ありきたりの対策が繰り返されているようだ。すなわち、リスクを評価し、コンティンジェンシー・プラン(緊急事態に備える計画)を立て、コア事業に集中し、コストを削減し、不測の事態に備える、といったことだ。口には出さずとも、生き残りや市場シェアの維持さえできればそれでよしと考えているようだ。

 諸説あるが、このような考え方はいまや役に立たない。規制が緩和され、貿易障壁が低下し、技術が急速に進歩し、人口構成が多様化し、また都市化が進んだ結果、世界は変わり、10年前にうまくいった戦略ももはや通用しない。

 景気後退期にあっては、規模の経済を働かせたり、顧客リレーションシップを活用したりできる大企業のほうが、ベンチャー企業よりも有利であることが多い。しかし、以前と違って今日では、既存勢力の市場シェアを奪取し、場合によっては買収しようと虎視眈々と狙っている新興国企業がいる。

 不況は、業界力学を一変させる。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストンコンサルティンググループそれぞれの研究からも、そのことは示されている。

 2000年の景気後退時には、業界のトップ企業(第1・四分位)の約3分の1が下位に転落した。そのうちの1割は5年後、何とか捲土重来したが、今日の市場リーダーの15%を見ると、先の不況時に上位陣の仲間入りを果たしていた。

 賢い企業は、不況を脅威と見つつも、ビジネスチャンスとも見ている。つまり、成長という目標において、他に勝る存在になれると考えているのだ。事実、ゼネラル・エレクトリック(GE)、ケロッグ、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)といった企業は、1930年代の大恐慌時、ライバルを出し抜いて業界リーダーの地位についた。

 彼らは、それぞれ異なるやり方で逆境を生かしたが、一つだけ共通点がある。大恐慌時に、「バリュー・フォー・マネー」戦略を展開したことだ。すなわち、不況に苦しむ消費者が節約できるように、これまでと同じ金額で、あるいはより少額で、さらには破格の金額で、よりよい製品やサービスを提供することで、成長したのである。