◆バランスを取り戻す

 私たちは、どうすれば社会のバランスを取り戻せるのか。民間セクターがカギを握ると考える人たちもいる。企業の社会的責任(CSR)をもっと強化すべきだというのである。確かに、企業はもっと社会的責任を重んじて行動すべきだろう。しかし、社会に蔓延している企業の社会的無責任の弊害を、企業の社会的責任を強化することですべて埋め合わせられると思っている人は、あまりにおめでたい。企業の利益追求と社会問題の解決が両立する「ウィン・ウィン」の世界が生まれるなどとは思わないほうがよい。

 一方、民主的な政府が精力的に行動することに期待する人たちもいる。もちろん、政府はもっと活発に行動すべきだ。しかし、既得権益をもつ国内外の民間企業によって政治が牛耳られているかぎり、それは実現しない。

 そうなると、残るのは多元セクターだ。このセクターを担うのは、ほかの誰かではない。あなたが、私が、私たちが、みんなで行動する必要がある。いま求められているのは、もっと多くの社会運動と社会事業をおこない、既存の破滅的なやり方にノーを突きつけ、建設的なやり方に転換していくことだ。私たちは、「人的資源」という名の資源(リソース)としての立場に甘んじてアンバランスな現状を助長するのではなく、「人間」としての知恵(リソースフルネス)を発揮し、未来の世代と地球を救わなくてはならない。

 


【書籍のご案内】

『私たちはどこまで資本主義に従うのか』
ヘンリー・ミンツバーグ著/池村千秋訳

 企業と政府だけでは社会の問題は解決できない―― 『戦略サファリ』『マネジャーの仕事』の著者ミンツバーグが示す新たな経済社会とは?

 かねてから経済や組織は合理性だけで機能しないことを訴えてるミンツバーグが、
視野を社会全体に広げて語る、集大成的著作!

ご購入はこちら
Amazon.co.jp] [紀伊國屋書店BookWeb] [楽天ブックス