アクティビストの戦略に関する私自身の研究に基づき、以下に4タイプの(実際の出来事に即した)仮説シナリオを挙げ、アクティビストが取りうる複数の戦略を明らかにしたい。これらのアプローチを理解すれば、経営陣はアクティビスト投資家の接触に伴う不確実性を軽減できるだろう。
1.利回りの最大化に注力する投資家
この手の投資家は、経営陣が現在どう資本を配分しているか、今後どのように戦略を変えれば株主利回り(配当利回りと自社株買い利回りの合計)を最大化できるかに注目する。一般的には、株主利回りをできるだけ短期間(通常は半年から1年)で増やせるようにバランスシートを再構築することを指す。
例:ジョリー社(以降、社名はすべて仮称)はS&P500指数を構成する一流企業で、2年間の総利回りは市場平均を60%余り上回る。会社全体の指標は申し分ない。にもかかわらず、同社の資本配分戦略は株主利回りと自社株買い利回りを最大化しておらず、PEGYレシオ(PER÷[成長率+配当利回り])は常にS&P500の平均以下で推移していた。公開されている指標すべてが物語っているのは、経営陣が多額の余剰金の保有に満足し、低めのレバレッジを維持したがっているということだ。そのため、株主利回りは最大限に高まっていないと見て間違いなかった。
アクティビストはこの場合、上級幹部に債券の発行を迫り、余剰金を増配や特別配当、自社株の大規模な買い戻しに再分配するよう持ちかけるだろう。
2.拮抗している競合企業を合併させる投資家
複数の企業が同一市場で競合し続けるのは、理にかなわない場合がある。工業系や素材系などの不安定な業界では特にそうだ。ここでアクティビストが考えるのは、競合同士を合併させてより生産性の高い企業をつくり、規模の経済を利用してその分野を独占できないかということである。
例:アクメ・インダストリーズ社とウィジェット社は、きわめて競争の激しい業界(ほぼ寡占状態)で事業を展開していた。両社は基本的に同じサービスを提供し、顧客基盤も同等であり、今後の展望も似通っている。ここ数年、両社は利益率の圧迫、売上高の横這い、収益減に見舞われていた。とはいえ、両社とも1株当たりフリーキャッシュフローは良好で、固定費率にも目立った問題はなかった。したがってこの2社が合併すれば、株主価値の点では非常に有益なことは明白だ。
アクティビストはこの場合、アクメ・インダストリーズに対して取締役会の再編、資本構成の変更、ウィジェット社との合併を促すはずだ。
3.事業を分社化する投資家
企業は相互補完的でない複数の事業部門を抱えていると、1つのバランスシートで全体的な株主利益を最大化するのが困難となる場合がある。たとえそれらの部門が利益を上げていても、それぞれの資本用件はまったく異なるかもしれない。そのためアクティビストは、分社化によって資本構成を別々にして、各業績を最大化しようとする。
例:ハッピー社は、資本集約的な機械事業と消費者向けのサービス事業を営む大手企業だ。機械事業による収益は景気変動の影響を大きく受ける一方、消費者向けサービスによる収益は継続的で安定している。双方がマクロ経済的要素から受ける影響も大きく異なる。さらに両部門の資本用件も著しく異なるため、両方に適したバランスシートを構成するのは不可能だ。
これを踏まえたアクティビストは、消費者向けサービス事業を分離・子会社化するという戦略を取り、業績の最大化を図るだろう。2つの異なるバランスシートを持つことで、経営陣はリスク要因(収益構造や経済状勢の変化など)への対策を効率よく立案できる。
4.お荷物部門を排除する投資家
一般的にアクティビストは、会社全体の足かせとなる不調な事業部門を見極め、分離させるよう促す。お荷物を排除するためだ。
例:マインミー社が身を置く業界は競争が激しく、近年では主に合併による寡占化が競争に拍車をかけていた。同社は相互補完性のある2つの事業部門を有していたが、片方が市場の平均以上の成長率を見せていたのに対し、もう片方は時代遅れになっていた。前者は売上高成長率75%を示していたが、後者の収益成長率は10%減少したのだ。さらに、不調な部門は多額の設備投資を必要とする半面、成長部門は事業の拡張性が非常に高く、最低限の設備投資で済む。
アクティビストは不調な部門を売却するよう同社に働きかける。売却による利益とそれによって浮いたリソースは、会社全体の成長を支えるべく再配分できるからだ。