複合競争の時代に
勝つために、
なぜIoTが有効なのか

運航管理システムを売るGE
成果を売る事業モデルの事例をいくつか紹介しよう。ゼネラル・エレクトリック(GE)はもともと、航空機のエンジンをつくって売っていたが、エンジンの提供だけでなく遠隔監視による保守サービスも請け負うようになった。やがて航空機全体のメンテナンスも受託するようになる。それによって事故の予防、メンテナンスコストの削減を提供した。
GEは現在、その先のステージに進んでいる。LCC向けの新たなビジネスモデルだ。LCCのリスクは、エンジンや機体のメンテナンス不調によって航空機が飛べないことである。これは、膨大な事業ロスにつながる。そこでGEは、航空機が運行した分だけチャージするというビジネスモデルに乗り出した。しかも、LCC向け予約発券顧客システムの8割を押さえるアクセンチュアと組むことで、GEは最も利益の上がる路線を計算し、LCCに最適な運航管理サービスも提供する。
クルマの走行距離に応じて課金する
ミシュラン
もう1つはミシュランの事例だ。タイヤ業界では性能や製造コストで競争しても、これ以上の成長を見込むのは厳しくなっている。そこでミシュランは、タイヤにセンサーをつけ、運用コストの最適化サービスを行うようにした。整備時間の短縮や自動化、燃費の改善やタイヤ交換のタイミングの最適化というサービスを提供した。
その次のステージとして、ミシュランは走行距離に基づいたタイヤ使用料を受け取るビジネスを生み出した。運送会社に提供している「デジタルタコメーター」から得たデータからドライバーや経路の特性、ガソリンの消費傾向を分析し、運送会社にこれまでにない新しい成果を担保するビジネスモデルに転換している。
患者へのサービス全般を
ビジネスにするノバルティス
製薬業界での事例も興味深い。もともと製薬会社は、ブロックバスター(大型新薬)分野で収益を上げてきた。これは一つの薬剤が万人に効くという前提に立つが、本当は一人ひとりDNAが違うので、同じ薬でも効く人と効かない人がいる。その前提に立ったうえで、人のDNAに合わせて加工する「パーソナライズド・メディスン」という動きが出始めている。人の遺伝子情報がわかってきたうえに、IoTなどデジタル技術によるデータ解析で一人ひとりに合わせた薬がつくれるようになった技術の進展が大きい。
これによって、製薬会社は薬をつくって売るビジネスから、薬を中心としたヘルスケア全体のサービスを提供するビジネスへの移行が可能になる。
その顕著な例がノバルティスの「ジレニア」という薬だ。ジレニアは、20代から30代の若い女性が罹りやすく、根治しにくい「多発性硬化症」向けの薬である。この病気はそもそも病気として認知しにくく、治ったと思ったら再発する。また人によって症状もまちまちであり、長期の治療が求められるやっかいな病気だ。
ノバルティスは単に薬を売るのではなく、患者のパーソナライズ・サービスの提供に事業モデルを転換した。このサービスではまず患者の症状やニーズに応じて治療プログラムを設計する。そして患者ごとの治療や投薬履歴を、さらには保険加入の情報も収集し、患者ごとのデータを分析することで最適なプランを提案する。ノバルティスは、単純にジレニアを売ることを考えるのでなく、病気を完治させるまでのサポートをプラットフォーム化している。