IoTがもたらす
ビジネスの未来図

 現在、新しいビジネスモデルが生まれつつあるIoTだが、この先にどのような世界が待っているのか。産業機器業界のケースを見ることで、IoTの未来像を想像してみたい。

 企業が製造工場を立ち上げようとした時、通常は産業機械を購入して製造ラインを作るなど最低数億円規模の投資が必要となる。この機会をとらえ産業機器メーカーは、顧客が使う機械を売ることで事業を続けてきた。しかし顧客は産業機械がほしいのではなく、そこから生み出される製品を求めている。そこでメーカーが機械設備を所有したまま工場に納入し、機械のオペレーションだけを工場に任せ、実現した売上げに応じたチャージを受け取るという仕組みである。

 このケースでは、資本なしで工場を持てる世界が実現する。顧客は設備導入競争から解放され、製造オペレーションに特化する戦い方ができるようになる。高額な投資をしなくて済むだけに、より柔軟にかつ継続した事業が進められるようになる。また事業環境の変化にも迅速に対応できるメリットも大きい。同時に、産業機器メーカーは優れた産業機械をつくると次の製品が売れないというジレンマから解放され、過度なインベンション競争に参戦する必要がなくなるのだ。

 プレス加工機など、コモディティが進んだ分野にこそチャンスがある。コモディティ化とは差別化ができない元凶のように言われるが、どれを使っても同じ結果が得られるというメリットがある。メーカー側はIoT技術によって機械の稼働率をすべて把握することにより、忙しくて仕事を引き受けられない工場から、余力のある工場に仕事を移転させることもできる。つまり、産業機器メーカーが業界のプラットフォームになる可能性も出てくる。

IoT時代に必要な
ケイパビリティとは何か

 IoTによって成果を売る時代になると、そこで求められるケイパビリティも変えていかなければならない。キーワードは、スピード、フロント化、エコシステムの3つだ。

顧客の要望を優先する「スピード」

 変化の度合いが格段に上がっていくので、さらなるスピードアップが求められる。シスコシステムズは「スピンアウト、スピンイン」の仕組みを取り入れている。同社をスピンアウトした人材がシリコンバレーで育ち、その人材を再びスピンインで取り込む。だからシスコシステムズはM&Aが多い。GEも「ファストワークス」を提唱し、もはや「シックスシグマ」の時代から進化したかのようだ。ウォーターフォール型でモノをつくるのではなく、顧客と直接コミュニケーションを取りながら進化させるスピードが必要になる。激動するマーケットでは、いち早く事業モデルを変えた先駆者にすべてを持っていかれる。出遅れは致命的な事態を引き起こす。

事業の始点も終点も顧客に近い
「フロント化」

 80年代までの「いいモノをつくって売る」時代は、自社にいかに技術があるかが重要であった。このときB2B企業の営業体制は作る・売るの分業で成り立っていた。90年代に入り「低価格化」時代には顧客とのコミュニケーションに営業だけではなく仕様や価格のすり合わせが可能なエンジニアも加わった。さらに、2000年代の「インテグレーション」の時代にはソリューションの提案が可能なコンサルティング機能も前線化した。そして、「成果を売る」時代では、成果を売るサービスモデルの構築を可能とするデジタルケイパビリティをフロントに組み込む必要がある。

 これを突き詰めればすべての起点は顧客となる。B2B企業であっても、その先の消費者の体験価値を高めるためのフロントの重要性がますます高くなったのである。かつてCRM(顧客管理システム)が流行したが、当時はコンセプト倒れで終わった。デジタルテクノロジーが未熟だったため、自社の限られたデータだけでは顧客の理解は進まなかった。その意味では、いまはCRMを遂行するためのあらゆるデータが手に入る。本当の意味でのCRMができる時代になった。