デジタル時代における経営、さらには世界の諸問題への対処にあたり、このような変化は問題になりうるだろうか。答えはもちろんイエスだ。
トーマス・フリードマンは2012年、『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムで次のように述べている。エジプトの友人に同国で起きた反政府運動について尋ねたところ、「フェイスブックは情報伝達には大いに役立ったが、コラボレーションの役に立ったわけではない」という答えが返ってきた。フリードマンはさらにこう付け加えている。「最悪の場合、ソーシャルメディア依存が、実際に行動を起こすことの代替行為となってしまう」(英語記事)。
これは次のような現象の理由にもなる。カイロのタハリール広場やウォール街で繰り広げられる大規模な社会運動は、社会変革の必要性に関する人々の意識を高めるかもしれない。しかし多くの場合、そうした変革活動の大部分を実際に進展させるのは、コミュニティに存在する小さなグループによる、小規模な社会事業なのだ。
個々の組織レベルでは、私があちこちで繰り返し述べてきたように、優れた企業は「人的資源の集合体」ではなく「人間のコミュニティ」として機能している。企業というものは当然ながら、社内のコミュニケーションや社外とのつながりを保つために強固なネットワークを必要とする。特にマネジャーにとっての人脈づくりとコミュニケーションは、意思決定に役立つことはもちろん、それ自体が日々の重要な仕事だ。しかし、それよりはるかに重要なのは協働である。そしてそのためには、組織に強いコミュニティ意識が必要となる。
昨今、人々はリーダーシップの在り方をあれこれ論じ立ててばかりいるが、より重要なのは「コミュニティシップ」である。優秀なリーダーは組織にコミュニティ意識を醸成し促進する。そのためには現場に関与するハンズオン型のマネジメントが必要だ。マネジャーは個々人のリーダーシップの枠を超え、優れた組織が集団として有する性質について理解しなければならない。
電子的なコミュニケーションは企業に不可欠であり、グローバル規模での業務では特に必須となる。しかし、新たなIT技術でどれほどつながっていようとも、企業の核となるのは人間同士の直接的な協働関係であることに変わりはない。したがって、どの社会や国のどの地域や企業であれ、「ネットワーク化された個人主義」に注意すべきだ。この状態にある人々は、コミュニケーションは容易にできるが協働は苦手とする。
新しいデジタル技術はコミュニケーション強化には有効である半面、取り扱いに注意しないとコラボレーションに悪影響を及ぼしかねない。人間が電子機器を通して触れるのは、キーボードだけなのだから。
HBR.ORG原文:We Need Both Networks and Communities October 05, 2015
■こちらの記事もおすすめします
経営学の巨匠ミンツバーグが示す 新たな経済社会とは?
薄いネットワークをどうやって濃いコミュニティに育てるか

ヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg)
カナダのマギル大学クレグホーン寄付講座教授。著書に『マネジャーの実像』、『MBAが会社を滅ぼす』、『戦略サファリ[第2版]』、最新刊に『私たちはどこまで資本主義に従うのか』がある。経営思想界のアカデミー賞と言われるThinkers 50で3人目となる生涯功績賞(Lifetime Achievement Award)を受賞。