――わずかな改善の積み重ねによる成功は、何よりもチームの文化によるところが大きい、とよくおっしゃっていますね。

 文化がもたらす最大のメリットは、熱意を伝播させることでしょう。そうなれば誰もが改善策を探し始めます。改善の余地を見つけるという行為には、本質的に満足感をそそるものがあります。スカベンジャー・ハント(借り物競争/がらくた集め競争)と似た友好的な雰囲気が生まれ、参加者は見つけたチャンスをグループの仲間と共有したくなるのです。おかげで我々のチームはとても前向きになりました。

 ただし注意すべきは、改善の取り組みをメンバーの半分しか歓迎していなかったらうまくいかない、ということです。その場合、わずかな改善点を探すという行為は反感を招きかねません。私の経験上、誰もが前向きに取り組めば「自分が標的になる」という恐怖心は払拭されます。責任感が共有され、それが優れたチームワークの礎となるのです。

――この改善の手法は、他の分野でも有効だと思いますか。

 はい、そう思います。私は最近、イギリス政府の最も中枢に近い閣僚と会って議論しました。国の医療サービスの改善に、わずかな改善の積み重ねを適用できないかということです。政府は新しいマネジメント手法に関する知識を、すでに多く持っているはずです。イギリス内閣府の「ナッジ・ユニット」(政府直轄の「行動インサイト」チーム。ナッジとは、強制的にではなく控えめに行動変革を促す手法)は、行動科学などに精通していますからね。

 ビジネスの領域でも、この手法を適用できる機会は豊富にあると思います。しかし個人的には、この改善手法が公共サービスにどう役立つかに関心を持っています。

――プロの自転車競技はドーピング問題で揺れています。選手が違法行為によって強くなろうとするのを、どうすれば防げるでしょうか。

 私がオリンピックからプロチームの総監督に移った時期は、ちょうどドーピングの全盛期が終わりつつあった頃です。しかし、最近の自動車業界におけるフォルクスワーゲンのスキャンダルや、過去の銀行のケースを見てもわかるように、競争のある世界では人間は常に優位に立つ方法を探そうとするものです。選手の自制に期待するのは甘いと思います。したがって、他のあらゆる競争分野と同じく、自転車競技でも効果的な取り締まりを行うべきです。

 ただし私個人の体験から言えば、強くなりたいという選手の欲求を、合法的なやり方で満たすことは可能です。ユニークで効果的な能力開発プログラム、最高のトレーニング、最高の栄養、最高の科学とテクノロジー。これらが与えられていると選手に実感させることができれば、違法な手段への誘惑を抑えられるはずです。選手が勝ちたいと思うのは当然ですが、そのためにどんな代償でも払いたいわけではない。彼らは正々堂々と勝ちたいのです。


HBR.ORG原文:How 1% Performance Improvements Led to Olympic Gold October 30, 2015

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エベン・ハレル(Eben Harrell)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のシニアエディター。