本社が取り組まなければならないのは、まさにこの“グローバルコーディネーター型”の日本人リーダーの育成である。現地人トップや役員たちの考えを尊重しつつ、彼らに影響を与え、彼らが明らかに誤った決断をしそうな場面で正しい方向に導く役割だ。普段はそれぞれの分野で現地人リーダーのシャドーマネジメントに徹しているが、いざとなると経営陣の一員としての存在感を発揮する。本社のキーマンとのネットワークを持っているだけでなく、組織の暗黙知もしっかり頭に入っていて、専門性も高いが、同時にバランス感覚に優れ、知恵袋として現地幹部に大いに頼りにされる人材である。マルチドメスティック企業においては、このような現地人から頼れる“グローバルコーディネーター型”リーダーが本社から送り込まなければいけない。
③ グローバル企業
グローバル企業のキーワードは、世界中のオペレーションの統合経営である。ここで必要となるのは、本社の企業理念、方針、基準、行動規範、さらには様々な社内プログラムを世界に徹底して広めていく“グローバルインプリメンター型”のリーダーだ。彼らは会社のビジョンや理念を現地幹部やスタッフに対して体現することができ、かつ現場で戦略実行の指揮をとるバリバリの現場型の人材だ。本社のキーマンとの強いネットワークを持ち、海外にいながら本社の中長期戦略策定や、経営の重要な意思決定にも関わっている。こういったリーダー人材の候補は言うまでもなく日本人が主となる。あるいは少数ではあるが、本社採用で日本において一定期間働いたことのある「本社の洗礼を受けた」外国人のケースもある。いずれにせよ、本社籍であることが重要なポイントとなるのである。
米国のGEやコカコーラのようなグローバル企業は、このようなGBL人材候補を本社で採用し、海外トレーニーなどの育成プログラムで時間をかけて育てた上で、海外に送っている。多くの日本企業がこれまで、日本人管理職を大量に海外に赴任させてきたが、残念ながらその方法は場当たり的なローテーションだった。語学力にいたっては韓国企業や中国企業の海外赴任マネジャーと比べても低レベルであることが実態である。場当たり的なローテーションで海外拠点のマネジメントを賄ってきた結果、GBLとして育ったリーダー人材は極めて少ないのが現状だ。今後はGBLとしての適性をしっかり見極めた上で、若い頃から語学力や異文化対応スキルを身につけさせ、海外トレーニー制度やGBL育成プログラムなどを通じて計画的にGBLとして育成していくことが重要である。