失敗する原因は様々であるが、主な原因としてはデューデリジェンス(適正評価手続き)の失敗、買収価格設定の失敗、PMI(Post Merger Integration:買収後の統合)の失敗などが挙げられる。中でも特に、PMIは日本企業があまり得意としないプロセスである。なぜならPMIを主導できるGBL人材が社内に少ないからだ。図表2に示したようにPMIにおける組織統合には幾つかのパターンがある。

(1) 独立維持
  買われた会社の独立性を保ったまま、財務上の連結のみを行うパターン。買われた会社の自由度、アイデンティティ、ブランドは買収前の状態のまま保たれるので、買われた会社の経営者や社員の意識や行動は変わらない。買った会社にとってみると、M&Aによる相乗効果が出にくく、株主価値が高められないことが多い。

(2) 表面的独立維持
  買われた会社の対外的なブランドは維持したまま、組織的には両社の間接部門などを統合、また重複している部門の整理などを行うパターンである。両社間で人的交流も始まり、買われた会社の社員の意識や行動は徐々に変化する。コスト面での相乗効果は出しやすく、株主価値を高められる可能性が高い。一方で、買われた会社のアイデンティティを買った会社にシフトさせる過程で文化的衝突が起きやすく、プロセスをしっかり管理しないと社員や顧客を失うリスクがある。

(3) 統合
  買った会社は買われた会社のブランドを完全に社内に取り込む。買った会社は、買われた会社側の人事に深く介入し、買われた会社の組織的支配を深め、さらには買った会社の企業理念や共有価値が買われた会社の社員に教育される。買った会社にとっては、買われた会社のビジネスノウハウ、特許、顧客、システムなどを完全にコントロールできるため、戦略的な相乗効果が最も出やすく、トップラインの改善が狙いやすくなる。その一方で(2)のパターンと比較しても、より文化的な衝突が起きやすく、このプロセスでの失敗は、幹部社員、一般社員、大型顧客などを失うことを意味する。