●弱みや盲点が明らかになる
リーダーの能力に関する実態を高い精度で描き出せば、その反対側の側面、つまり組織の弱みについても明らかになる。たとえば評価の結果、シスコの幹部たちは部下と十分な絆を築けていないと示されたら、より広範な問題として、従業員エンゲージメントの欠如を疑うことができる。
また経営陣の全体的な能力は、ポートフォリオの観点で評価される。幹部チームに特定のビジネス能力が(技術面であれ戦略面であれ)欠けていることが示されれば、教育、買収、あるいは外部からの人材招聘を通じて埋めるべき弱点が明らかになる。たとえば幹部の顔触れに、戦略的思考に長けているが実務能力に欠ける者が多いとしたら、組織は戦略の実行面で問題を抱える可能性がある。
幹部評価はしばしば、リーダーの盲点を明らかにし、時に本人を驚かせることもある。その一例として、ある幹部は組織で広く称賛を受けており、世界各地のスタッフから「卓越したリーダー」で「ロールモデル」だと見なされていた。しかし、同僚からの報告は趣を異にするものであった。よそよそしく、身構えており、「ビジネスの重要な決定について人に相談しない」というのだ。このフィードバックは、たちどころに当人の目を開かせた。彼は賢明にも、批判を素直に受け止めて同僚と直接向き合った。そして自分のやり方を修正し、関係を修復し、同僚からの信頼を構築し始めたのである。
●幹部の能力開発を加速できる
シスコのように規模と範囲が大きい企業では、個人のリーダーシップ能力を試し、育成する機会が数多くある。我々の幹部評価は、個々人がどこをどのように改善する必要があるか、何を達成したいかについて、基準となる指標を提供する。あるリーダーは対立の解決や折衝に関するスキルを伸ばす必要がある、という評価結果が出れば、それらの課題を確実に伴うプロジェクトやチームの任務をピンポイントで与えることができる。あるいは、戦略面やグローバルな任務での経験をもっと積ませてもよい。
たとえば、ある非常に有能な幹部への360度評価では、リーダーとしての力が十分に活かされていないということが示された。我々はこの結果をふまえ、より注目を浴びる重要な役職へと彼女を配置換えし、取締役会にも引き合わせた。その後、任務を与えるたびに、彼女が新たな課題にうまく対応しながら経験と自信を積んでいく様子が見られた。
●チーム運営能力が明らかになる
シスコには非常に多くのプロジェクトチームが存在する。階層は重要ではあるが、当社のビジネスの性質上、協働的に仕事をすることが求められる。意思決定は迅速かつ効率良くあらねばならない。1つの製品分野のリーダーは他の分野のリーダーとうまく連携する必要がある。
シスコの幹部評価は、各リーダーのチーム運営能力を測るよう設計されている。チームメンバーからのフィードバックを提供することが、「責任(アカウンタビリティ)と協働の文化」を醸成し続ける一助となっている。
●円滑な後継人事の下地ができる
2015年、ジョン・チェンバースが会長専任となり、チャック・ロビンズが新CEOに任命されたが、この後継人事では当社の幹部評価が重要な役割を果たした。社内の有力候補者を特定するための情報として、特に取締役会とCEO選考委員会の役に立った。CEO継承計画が進むなかで、我々は候補者らにローテーションでさまざまな任務を任せ、徐々に大きな仕事を与えて、育成計画を作成した。そしてCEOへの昇進にふさわしいと判明した複数の幹部には、特別なコーチングを行い、より広い職務範囲と責任を伴う役割を与え、外部の投資家に引き合わせ、世界的な舞台で発言する機会を提供した。
今回のCEO継承は総じて円滑に進み、混乱はほとんどなかった。その大きな理由は、上級幹部1人ひとりの能力を具体的に把握できていたためである。
このやり方を活かせる機会はCEOの交代にとどまらない。シスコでは10年近く、重要な上級職すべてについて堅実な継承計画を作成し、円滑な交代をいくつも進めてきた。幹部評価システムをその他のツールと合わせて用い、後継人事が具体化する前からトップリーダーの適任者を特定しておけば、リーダーシップパイプライン(リーダー育成の連鎖)を安定的に保つことができる。そして、しかるべき時に円滑な交代が可能になるのだ。
●取締役会に安心感をもたらす
シスコの取締役会は、継承計画だけでなく幹部人材の能力と要強化点を知ることにも高い関心を寄せている。この種の情報を取締役会に報告するのは、一般的な慣行ではない。だがそうすることで、シスコの取締役会は情報を常に把握でき、リーダーたちの質について自信を強めることができる。
経営陣の能力を評価・把握することに、負の側面はあるだろうか。たしかに、すべての幹部がそのプロセスを傷付かずにやり過ごせるわけではない。改善すべき点が露わにされるのは、大きな痛手かもしれない。さらに、最高責任者レベルの幹部に別の、もっと適した役割がある場合、その事実が本人にあからさまに突き付けられる。
シスコの円滑なトップ交代が示すように、明らかにCEOにふさわしいリーダーが1人以上いる場合、現職CEOは予期しておかねばならない。彼らがいつの日か、自社であれ他社であれ、組織を率いるトップとなることを。
HBR.ORG原文:How Cisco Gets Brutally Honest Feedback to Top Leaders December 29, 2015
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カサンドラ・フランゴス(Cassandra Frangos)
シスコシステムズのグローバル幹部人材および組織開発担当バイスプレジデント。