グロースマネジャーが果たすべき仕事は、次の3つの要素からなる。第1に、会社の成長計画を明確にすること。第2に、成長施策を調整・実行すること。第3に、レベニューファネル(顧客を製品への関心度に応じて層分けし訴求するプロセス)を最適化することである。
ただし、これらを実行するには、その前に適切なデータインフラが整っている必要がある。
データは成長における燃料だ。グロースマネジャーの下で成長促進に取り組むグロースチームは、与えられたリソースのかなりの部分を、ユーザー行動の分析や科学的実験、的を絞ったプロモーションなどを可能にするインフラストラクチャーの構築に注ぎ込む。
多くのグロースチームは自社固有の要件を持つため、独自のデータインフラを築く必要があるが、その際にたいていは市販のSaaS(サービス型ソフトウェア)製品を利用する。これには、アドビアナリティクスやグーグルアナリティクスのような解析ツールから、オラクルのマキシマイザー(Maxymiser)やオプティマイズリー(Optimizely)のようなA/Bテストツールまで、さまざまな製品が含まれる。
グロースマネジャーは、これらの製品を選択して自社のアナリティクスのシステムに統合し、グロースチームの独力またはアナリティクスチームとの協働で、KPIダッシュボードとテストツールを組織全体にサービスとして提供する。
データが利用できるようになったら、グロースマネジャーは自社の成長目標の明確化を支援する。この際、通常は2つの重要な問いに対する答えを出す。
1つ目は、「成長施策はファネルのどの層に焦点を当てるべきか」である。たとえば、リソースは新規ユーザーの獲得に注ぐべきか、それとも離反を食い止めるために用いるべきなのか。2つ目は、「目標に対する進捗状況を、いかに定量化して会社が把握できるようにするか」である。これを実現するには、KPI(主要業績評価指標)を選定し、各指標のレポートを作成して、組織全体で活用できるようにする。
グロースマネジャーはまた、顧客インサイトも提供する。まず、ターゲット別のインタビュー、使い勝手に関する調査、そして顧客のフィードバックを通じてもたらされたユーザーのニーズや習慣、認識について理解を深める。その知識をデータと組み合わせてインサイトを得るのだ。
グロースマネジャーは手元のデータを用いて、自社が抱える厄介な「なぜ」に対する答えを出す。たとえば、なぜユーザーはサインアップの途中で離脱するのか、なぜユーザーはアプリケーションを初回にダウンロードした後で利用しないままなのか、なぜ特典に応じないのか、等々だ。これらに関する知見は製品チームにフィードバックされて、開発における優先順位付けに貢献し、以下に記すように製品ロードマップに影響を及ぼす。
グロースマネジャーは、成長の取り組みと製品の改良における優先順位を設定する。成長施策につながるアイデアは、組織内のほぼすべての職能で生まれるものだ。グロースチームの外部から寄せられる製品への要求を、グロースマネジャーが受け止めて擁護しなければならない。そして、「成長のための製品改良」に優先順位をつけて改良テストのサイクルを調整するための、枠組みを導入する必要がある。
ショーン・エリスは、成長を目指すグロースハッカーたちが集うオンライン・コミュニティGrowthhackers.comの設立者であり、以前はリモート接続サービスを提供するログミーイン(LogMeIn)のマーケティング担当バイスプレジデントであった。彼は、成長施策のアイデアに優先順位をつけるためのシンプルな枠組みとして、3つの重要な要素に即して判断することを提案している。
1. 改良が成功した場合のインパクトの大きさ
2. テストはきっとよい結果を出すはずだという自信
3. テストの実行にかかるコスト
これらを併せて検討すれば、たくさんのアイデアのなかで優先すべきものを決めやすくなる。
成長目標が明確化され、テストするアイデアの優先順位も決まると、グロースマネジャーはテストの設計と実施に目を向ける。テストが製品の中で行われる場合には、製品開発のプロセスで変更がなされるよう導く。その最初の作業として、必要な変更を製品要求書(PRD)で示したり、スライドによるプレゼンテーションで概要説明をしたりすることが多い。その後グロースマネジャーは、エンジニアリング、アナリティクス、設計、マーケティング、製品マーケティングなどを含む部門横断チームと協働して、テストを実行する。