では、優れたグロースマネジャーの要件とは何だろうか。

 データが成長の燃料であるとしたら、アナリティクスは成長のエンジンである。グロースマネジャーに求められるのは、統計的推論の方法を習得し、どうすれば効果的な実験を設計できるかを理解することだ。そしてユーザー体験に関するデータを解釈するために、数値に対する洞察力を培う必要もある。有能なグロースマネジャーはデータ解析について熟知しており、データの回収、操作、ビジュアル化に最適なツールにも詳しい(MySQL、エクセル、R、タブローなど)。

 グロースマネジャーはまた、ユーザー獲得のためのあらゆるチャネルをよく知り、駆使できなくてはならない。ネットワーク効果を伴う事業とマーケットプレイス事業に特化して投資を行うウーガ・ラブス(Ooga Labs)の創設者ジェームズ・カリアーは、ユーザー獲得チャネルを以下の3種類に大別している。

●オウンドメディア:Eメール、フェイスブック、クレイグズリスト、ツイッター、ピンタレスト、アプリ

●有料メディア:広告(モバイル、ウェブ、動画、テレビ、ラジオ、SEM〈検索エンジン連動マーケティング〉、アフィリエイト)、スポンサー契約

●アーンドメディア:SEO(検索エンジン最適化)、PR、クチコミ

 各チャネルにはそれぞれの利点、代償、特徴がある。そのため製品のターゲットとなる受け手にリーチするうえで最適なチャネルについて、詳細で具体的な知識を持つことが必須となる。

 また、グロースマネジャーには創造性と戦略的思考も必要だ。特に重要となるのが、リーダーシップである。なぜなら、市場と接する全職能に対し、直接的な権限なしに共通の成長目標へと向かわせなければならないからだ。さらに、「挑戦と実験」の色合いが強いこの仕事に見合うグロースチームと風土を築くうえでも、リーダーシップが強く求められる。

 多数の成長著しいテクノロジー企業を調査して判明したのは、グロースマネジャーは一連のユーザー体験におけるすべての部分、そしてファネルのあらゆる層において、成果を上げているということだ。

 初期のフェイスブックのグロースチームは、利用を続けるユーザーと離脱するユーザーの行動を比較して、ある結論にたどり着いた。新規ユーザーを定着させるうえでカギとなるのは、登録後2週間のうちに最低10人の「友達」を見つけてつながることである――。このインサイトを得たフェイスブックは、すでにサービスを利用している友達をユーザーがすぐに見つけてつながることができる機能を開発した。

 また、ピンタレストのグロースチームは新規ユーザーに関して、初期の体験フローを改善することでアクティブ率を20%以上も高めることに成功した。当初のオンボーディング(新規ユーザーにサービスの価値や利用方法を理解してもらうための情報提供プロセス。チュートリアルなど)では、サービスの説明に文字を多用し、最も人気のあるコンテンツを全ユーザーに共通で表示していた。これを、ビジュアルによる説明に変え、ユーザーへのアンケートに基づいて個々人の興味に合わせたコンテンツを表示するように変更したのだ。これによって、提供価値の説明とチュートリアルをより効果的にできるようになり、コンバージョンの向上につながった。

 今後数年で、グロースマネジャーはごく普通に見られる職能となることだろう。多くの組織革新がそうであるように、スタートアップ界隈で生まれた物事は、起業家的なやり方を取り入れたいと望む大企業へと伝播していくのだ。


HBR.ORG原文:Every Company Needs a Growth Manager February 19, 2016

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ジェフ・バスギャング(Jeff Bussgang)
フライブリッジ・キャピタル・パートナーズのゼネラルパートナー。ハーバード・ビジネススクールの上級講師も務める。著書にMastering the VC Game(邦訳『起業GAME』道出版)がある。

ナダフ・ベンバラク(Nadav Benbarak)
クラウド上のアイデンティティ管理を提供するOkta(オクタ)の、プラットフォーム製品マーケティング担当ヘッド。