ブルー・オーシャン戦略の今後の課題

 本稿では、ブルー・オーシャン戦略とマーケティングの補完関係を指摘した。今後、イノベーションとマーケティングをつなぐブルー・オーシャン戦略についての検討すべき課題は他にも残されている。

 まず1つは、どの事業にブルー・オーシャン戦略を導入すべきか、である。実は、すべての事業にブルー・オーシャン戦略が適しているわけではない。イノベーションの中で新市場を創造する世界初のケースは わずかに10%である(図表3)。つまり、ブルー・オーシャンを常に目指す必要はなく、既存事業の維持・拡大も同等に重要で、そのバランスこそが探索と深耕の両立、いわゆる「両利きの経営」である。したがって、どのような条件の下でブルー・オーシャン戦略を追求すれば最適かを検討する必要がある。

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図表3 イノベーションの革新性とその割合
出所)クーパー(2011)。

 これにも関連するが、資源制約という別の問題もある。ブルー・オーシャン戦略は、B2C・B2Bの違い、業種や企業間の違い、営利・非営利の違いを問わず、実行可能な戦略とされている。一方、資源ベース理論によれば、すべての事業や企業が同等の資源や能力を有しているわけではない。やれることは自ずと違ってくる。ブルー・オーシャン戦略の理論から導かれる理想像と、資源制約によって実行可能な戦略には違いがあるかもしれない。

 他にも、模倣や学習をどう考えるかという問題がある。企業は模倣し、追随する。時には、先行者利益より後発者利益が優ることもある。ブルー・オーシャンがレッド・オーシャン化しうることは、著者自身 も指摘している。レッド・オーシャン化が模倣や追随によって生じるプロセスを解明することが、翻ってブルー・オーシャン戦略の強化につながるかもしれな い。

 最善策ではなく次善策を選ばなければならないとき、広い海よりも閉じた池の方がむしろ低リスクということもあり得る。伝統的な競争戦略論もマーケティング論もワン・ベスト・ウェイは推奨せず、戦略類型や市場地位に基づくアプローチを推奨してきた。こうした条件適応的な発想に、ブルー・オーシャン戦略の理論はどう応えるのかも今後、考察したい。

 最後に、相互に得意な領域に特化し、売上ではなく利潤を最適化するというブルー・オーシャン戦略の発想は、今後の資本主義経済の希望となり得るかもしれない。これまでマーケティング分野をリードしてきたコトラーが今、成長経済を否定し、定常経済を提唱していることは注目に値する(注7)。

 企業と顧客と社会にとっての価値を創造する活動は「ポジティブ・マーケティング(Positive Marketing)」という(注8)。イノベーション、マーケティングと社会性との共存も重要なテーマであり、国家戦略や非営利組織にも応用されているブルー・オーシャン戦略がどのように活用されうるかも興味深い。

 イノベーションやマーケティング等の分野横断的な知見を統合し、今ある『ブルー・オーシャン戦略』のその先を見つめ、日本発の新たな理論とそれに基づく実践をグローバルに発信すること、それがWABOSIの目指す提供価値である。

お問合せ先:早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所(WABOSI)
E-mail:[和星]@list.waseda.jp

※[和星]をwabosiと置き換えてください。


【注釈】

注1)川上智子・岩本明憲・鈴木智子(2016)『マーケティング』中央経済社ベーシックプラス・シリーズ。

注2)川上智子(2005)『顧客志向の新製品開発:マーケティングと技術のインタフェイス』有斐閣。および川上智子(2013)「非顧客戦略による市場ドライブ型市場志向の実現:ブルー・オーシャン、マーケティング、そしてイノベーション」『マーケティング・ジャーナル』第33巻第2号、2-14頁。

注3)Sheehan、 N. T. and V. Bruni-Bossio (2015)、 "Strategic Value Curve Analysis: Diagnosing and Improving Customer Value Propositions、" Business Horizons 58(3)、 317-324.

注4)Levitt、 Theodore (1960)、"Marketing Myopia、" Harvard Business Review. 38(4)、 45-56.およびLevitt, T. (1968), Marketing Mode: Pathways to Corporate Growth, McGraw-Hill Inc., U.S.

注5)片平秀貴(1987) 『マーケティング・サイエンス』東京大学出版会。

注6)根来龍之(2015)『ビジネス思考実験:「何が起きるか?」を見通すための経営学100命題 』日経BP社。

注7)Kotler, Philip (2015), Confronting Capitalism, Amacom, New York. (コトラー『資本主義に希望はある:私たちが直視すべき14の課題』ダイヤモンド社)。

注8)Gopaldas, A. (2015), "Creating Firm, Customer, and Societal Value: Toward a Theory of Positive Marketing," Journal of Business Research 68(12), 2446–2451.