以上をふまえると、あるリスクが明白となる。それは些末な仕事に多くの時間を費やしすぎて、重要な仕事への時間が減ってしまうことだ。
我々がエモリー大学のディワズ・KCとノースウェスタン大学のマリアム・クーシャキと共に行った未発表の研究では、救急科で働く医師たちの完了バイアスを検証した。患者が予約なしで訪れる、慌ただしい病院の現場だ。患者とのやり取りに関する約4万3000件のデータを基に分析したところ、次のことがわかった。来院患者数の増加に伴って仕事量が増えると、医師たちは簡単なタスクに対し完了バイアスを示すのだ。
救急科における簡単なタスクとは、症状の軽い患者への治療を指す。このやり方は、一見すると有益に思える。軽症の患者は滞在時間が短いため、彼らに集中すれば医師の生産性は上がるからだ。
ところが、このやり方には少なくとも2つの問題がある。第1に、より深刻な症状の患者が長時間待たされることになる。これは明らかにまずい。第2に、軽症患者たちを次々と治療していくにつれて、医師のペースは落ちてくる。つまり、より重症の患者を診る前に、疲れて仕事の質が落ちるおそれがあるのだ。
完了バイアスに屈することなく、「簡単な目先のタスク」と「長期目標のための難しいタスク」とのバランスを保つには、どうすればよいのだろう。1つのやり方は、1日のスケジュールの組み方を検証し、必要ならば日々の作業計画のあり方を変えることだ。
そこで重要なのは、優先順位を知ることである。これは当たり前のように聞こえるかもしれない。だが、驚くほど多くの人が、3~5つの最優先事項さえ見極められない。あるいは、優先順位が変わった時にスケジュールをうまく調整できない。優先事項を明確にすれば、そこに十分な時間を注げるようになるのだ。
なおこちらの記事には、ゼネラル・エレクトリック(GE)のリーダーたちのやり方が紹介されている(英語記事。四半期の予定表に仕事をすべて貼り出し、5つの戦略的最優先事項と関連するものをハイライトする、など)。
また、500人あまりの従業員を対象に行った実験によれば、完了バイアスを上手に利用するのも賢い方法だ。1日のはじめに、簡単な作業をいくつか片づける。すると脳の準備が整うので、その後すぐ重要な仕事に取り組めばよい。
仕事のルーティンにもっと注意を払えば、完了バイアスによって生産性と質をむしろ高めることができるのだ。
HBR.ORG原文:Your Desire to Get Things Done Can Undermine Your Effectiveness March 22, 2016
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フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)
ハーバード・ビジネススクール教授。経営管理論を担当。ハーバード・ケネディ・スクールの行動インサイトグループのメンバーも務める。著書に『失敗は「そこ」からはじまる』(ダイヤモンド社)がある。

ブラッドレイ・スターツ(Bradley Staats)
ノースカロライナ大学キーナン・フラグラー・ビジネススクール准教授