個人だけでなく企業にも同じことが言える。米国有数の長い歴史を持つベンチャーキャピタル、ベッセマー・ベンチャーパートナーズは、大成功を収めたスタートアップのいくつかに投資して大きな儲けを上げてきた。近年ではリンクトインやイェルプ、ピンタレスト、ブルーエプロン(食材宅配)などがある。

 しかし同社は長い歴史のなかで、莫大なリターンを得られたはずの投資案件を見合わせてきた。そこにはアップルやイーベイが含まれ、フェデックスに関しては7回の投資機会をすべて見送っている。

 ほとんどのベンチャーキャピタルは、こうしたチャンスの逸失を汚点として隠すものだ。しかしベッセマーは、それらを「アンチ・ポートフォリオ」なるものにして公開している(英語サイト)。これは基本的に、同社パートナーたちの「失敗の履歴書」である。

 たとえばペイパルの項目では、次のように書かれている。「デイビッド・カウアン、シリーズA投資を見送り。駆け出しの経営陣、規制面での困難さを考慮。4年後にはイーベイが15億ドルで買収」

 ロータスとコンパックについてはこんな具合だ。「ベン・ローゼン(著名ベンチャー投資家)がフェルダ・ハーディモンに、ロータスとコンパック・コンピューター両社への投資を同じ日にもちかけた。ハーディモンの述懐:『ロータスにはまだ実績がなかったし、同社の内部状況が懸念された。コンパックについては、可搬型のコンピューターはすでにIBMがいるから将来性が見込めない、とローゼンに話した』」

 フェイスブックへの投資見送りについては、次のように書かれている。「2004年夏のある週末、ジェレミー・レビンは会社の保養所で、ハーバードの学生だったエドゥアルド・サベリン(フェイスブック共同創業者)の執拗な売り込みを適当にいなしていた。ランチの列でついに詰め寄られたジェレミーは、賢明にもこう助言を与えた。『きみは、すでにフレンドスターというものがあるのを知らないのかな? 別のことを考えたほうがいい。この件は終わりにしよう!』」

 みずからの失敗や逃したチャンスを、これほど率直に(そしてユーモラスに)認め、ましてや大々的に公開している人や企業が、いったいどのくらいあるだろうか。むしろ私たちの多くは、成功の理論とその展開についてあまりにも単純化して考えている。そして真実とは違うそれらのストーリーはしばしば、実際の成功を妨げているのだ。

 名高い歴史家アーノルド・トインビーは、こんな名言を残している。「成功への過度の依存ほど、失敗をもたらすものはない」。私たちはいま、失敗こそが成功をもたらす時代に生きているのかもしれない。失敗を真摯に認めるならば、なおさらだ。

 ヨハネス・ハウスホーファーの失敗リストの末尾には、「失敗の失敗」という項目がありこう書かれている。「このいまいましい『失敗の履歴書』は、私の全学術業績よりもはるかに多くの注目を浴びた」

 あなたもぜひ、成功にあぐらをかくのではなく、失敗の履歴書を書いてみてはいかがだろうか。


HBR.ORG原文:Write a Failure Résumé to Learn What Makes You Succeed May 03, 2016

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ウィリアム・テイラー(William C. Taylor)
『ファストカンパニー』誌の共同創刊者。最新刊は『オンリーワン差別化戦略』(ダイヤモンド社)。既刊邦訳に『マーベリック・カンパニー 常識の壁を打ち破った超優良企業』(日本経済新聞出版社)がある。