ブランドをめぐる主体はこれまで、モノ、イメージ、体験へと進化してきた。そして今日のソーシャル時代では、「関係性」こそブランドであると筆者らは提唱する。ブランドと顧客の関係性を、より双方向的・対称的・互恵的にするための考え方とは何か。


 私たちは、ブランドに対する考え方を改める必要がある。かつてのブランドは「モノ」、または「コンセプト」だった。そして、人々はブランドと関係(リレーションシップ)を築いていた。

 しかし今日のソーシャル時代では、ブランドとは「関係性」そのものである。企業はそのブランドが提供できる関係性を明確化すれば、顧客のエンゲージメントとロイヤルティを高め、差別化を図ることができるのだ。

 この新しい考え方を理解するには、ブランドという概念がどのように発展してきたかを見るとよい。ブランドは元々、モノを識別するマークとして始まった。牛の飼い主は、みずからの所有権を示すために牛に焼き印(ブランド)を押した。

「ブランド=モノ」という考え方は、全米マーケティング協会の定義にいまなお垣間見える。いわく、ブランドとは「ある売り手の商品やサービスを、他の売り手のものと区別し、識別するための名称、言葉、デザイン、シンボル、その他の特徴」である。この考え方に従うと、ブランドとは売り手が生産する何かに適用されるものだ。

 その次の潮流では、ブランドは特徴から認識に、つまりモノからイメージへと変化した。アル・ライズとジャック・トラウトは古典名著Positioning(邦訳『ポジショニング戦略』)の中でその本質を捕らえている。彼らの定義によるブランドは、「企業が見込み客の頭の中に有する1つのイメージやコンセプト」だ。ここでのブランドとは、つくるものではなく管理するものである。

 最近の潮流では、ブランドは体験とされている。セルジオ・ジーマンは著書The End of Marketing as We Know It(邦訳『すべては「売る」ために』)の中でこう述べている。「本質的にブランドとは、ある商品や企業にまつわる顧客の体験すべてを包摂する器である」。換言すると、ブランドとは時間をかけて管理していくものではなく、(一連の顧客体験における個々の)瞬間ごとに提供するものということだ。

 我々が協働するイノベーティブな企業は、ブランドの認知、イメージ、体験のあり方を再定義しているが、それだけに留まらない。顧客との関係を本質から見直している。

 これまでの3つの潮流は、ブランドを「モノ」「イメージ」「体験」と捉えてきた。次に来るのは「関係性」である。