「関係性としてのブランド」を実践するには、企業と顧客それぞれの役割と責任を定義する必要がある。ブランドにまつわる一般的な関係とは、「提供者と顧客」である。この単純な関係性は、一方向的で非対称的だ。企業が商品やサービスを提供し、顧客がそれらを消費する、というだけである。
ブランドのイノベーターは概して、これとは異なるタイプの関係を築く。取引ベースの一方向的な関係ではなく、双方の役割はより協働的かつ互恵的になる。
たとえばホスピタリティ業界では、多くのブランドは「ホストとゲスト」という関係の上に成り立っている。まさに一方向的、非対称的、取引ベースの関係だ。そしてエアービーアンドビー(Airbnb)がこのモデルを覆した。同社はbelonging(つながり、帰属)というミッションを掲げ、世界中の人々が隣人同士、市民同士になれるような関係を育んでいる。これは互恵的、対称的、協働的だ。
タクシー・ハイヤー業界では、タクシーとリムジンのサービスは「ドライバーと乗客」という関係によって成立してきた。これも一方向的、非対称的、取引ベースの関係だ。しかしウーバーとリフトが、2つの側面で新しい役割を導入して差別化を図った。
まず、「ドライバーと乗客」という関係を「友人同士」に変えた。たとえばリフトの乗客は、友人の車に乗るような感覚で「助手席に座る」ことを勧められる。同社CMOのキラ・ワンプラーはこう語る。「当社が最初に掲げたキャッチフレーズは、『車を持つ友人』でした。これは、リフトが人間的で個人対個人の体験を提供するということを示すものです。加えて、他の個人運転サービスとの差別化にも役立ちました」
もう1つの新たな関係性は、「起業家と支援者」である。ウーバーはドライバー候補者に、「ウーバーで自分のビジネスを始めよう」と勧める。どちらのケースも、ブランドが提供する関係性はより互恵的で個人的だ。ウーバーの体験価値マーケティング部を率いるエイミー・フリードランダーは次のように説明する。「ウーバーとの仕事では、完全に柔軟なスケジュールであれ、副収入の確保という面であれ、とにかくドライバーのニーズが重視されます。ウーバーは、ドライバーのライフスタイルに合うようにつくられたプラットフォームであり、その逆ではありません」
航空業界でも、イノベーティブな企業はブランドをめぐる関係性を再定義している。ユナイテッド航空やデルタ航空といった大手既存企業は、「航空会社と乗客」という関係に基づいて運営されてきた。しかし、サウスウエスト航空はその型を壊した。客室乗務員が歌をうたい、「楽しい友人」と呼べる役割を築いたのだ。またジェットブルー航空は、スナックの無料サービスと「人間らしさを触発する(Inspiring Humanity)」というミッションを通して、「人と人」の関係を築いている。
ヴァージン・アメリカはまた別の志向で、「イケてる友人」と「パーティーのホスト」を足して2で割ったような役割を体現してきた。顧客はそれゆえに、アラスカ航空による買収に不満を抱いたのだろう。あるヴァージン航空のファンは『ニューヨーク・タイムズ』紙でこう述べている。「アラスカ航空はどちらかというと、気さくな叔母さんのような感じ」(好きだが強く愛してはいない、という意味)。この買収はまるで、誰かがパーティーを無理に終わらせて「さあ、みんな家に帰って」と促すようなものかもしれない。
関係性としてのブランドという概念は、成熟した業界リーダーの躍進からも見て取れる。アメリカン・エキスプレスは、カードをめぐる関係を「発行者と所有者」から「クラブとメンバー」に再定義した。ディズニーは、遊園地をめぐる関係を「運営者と来場者」から「キャストとゲスト」に再定義した。スターバックスは、スタッフの役割を「ウェイター」から「バリスタ」に変えた。のみならず、コーヒーショップの役割を「飲食店」から「地域コミュニティのハブ」へと再定義した。
ブランド・アーキタイプというコンセプト(ブランドを人格になぞらえ象徴づけること。心理学者ユングの提唱した「元型」が起源)に明るい人は、本記事のアプローチがそれと少し似ていると考えるかもしれない。違いは、ブランド・アーキタイプではブランドの「特性」に焦点を当てるということだ。だが我々が提唱しているのは、ブランドが顧客と築いている関係性が焦点となる。たとえば、ナイキは「勝利」を強調するブランドなので、アーキタイプは「ヒーロー」である。しかしナイキが提供している関係性は、「コーチとアスリート」と呼ぶのがふさわしい。