ヒット商品の落とし穴

 以下に挙げる、まったく異なる業界での4つの事例は、ミニベーションの落とし穴をよく表すものだ。そして、新しい製品・サービスの価値を十分に収益化するには、値付けの前に顧客の支払意思額を見極めるべきである、という教訓を示している。

●たちまち完売した玩具セット

 子育て経験のある方ならば、「プレイモービル」をきっと耳にしたことがあるはずだ。このカラフルなプラスチック製の人や動物の玩具は、1974年の発売以来、30億個近く売れ、世界中の子どもたちの遊び場とおもちゃ箱を賑わしている。ドイツのブランドシュテーターグループが製造・販売するこの製品は、幼児にとっての必需品となり、同社の2015年の売上高6億9600万ドルのうち、90%を稼ぎ出した。

 だが、同社もメガヒットを予見できなかったことがある。2003年9月、プレイモービルから、「ノアの方舟」という船と色とりどりの動物のセットが発売された。商品は2ヵ月で完売。その後はイーベイで買い求めることができたが、元の価格より33%も高くなっていた。値付けが低すぎたため、顧客が再販市場で儲けを手にする結果となったのだ。

●先行販売での売上高を更新した高級SUV

 2006年に5万5000ユーロで発売された、アウディの高級SUV「Q7」も、ミニベーションの顕著な事例だ。当時はガソリン価格が高騰しており、大型SUVの売上げは落ち込んでいた。このことが、控えめな判断につながったのだろう。アウディは販売予測を7万台とした。

 ところが、全世界での発売初年の需要は予測を14%上回り、8万台となった。需給曲線と価格弾力性の分析によれば、アウディがQ7の製造台数を7万台に固定したとして、価格を5万8000ユーロに設定できたことが示されている。それは、利益が2億1000万ユーロ増えることを意味した。同社の発表によれば、Q7はアウディ車の先行販売で歴代最高を記録したという。もしその動向を考慮していれば、アウディは追加の2億1000万ユーロを間違いなく得られたはずだ。

●新製品への値付けが低すぎた電子部品メーカー

 数年前、シリコンバレーを拠点とする某電子部品メーカーは、ある分野に革新をもたらすであろう部品を開発した。そして主要顧客の1社である某大手家電メーカーは、次に発売予定の高級製品ラインでその部品を使用すると明言した。部品メーカーの営業チームは大喜びである。新製品の価格を、既存の部品(60セント)よりも約40%高い85セントに設定したからだ。その新価格は、コストを算出してそこにマージンを上乗せするという、伝統的な値付けの方法に従っていた。

 だがこの部品メーカーは、すべての企業が新製品の開発に際し自問すべき、重要な問いをしなかった。「この製品は顧客に(そしてその最終顧客に)、どのような価値をもたらすのか」、そして「その価値から自社が得られる取り分は、どれくらいか」である。

 同社は新製品の発売後に、製品開発プロセスのアセスメントを外部に委託し、その結果にショックを受けた。顧客の大手家電メーカーは新たな部品の存在のおかげで、機器に50ドルも上乗せできていたのである。そのプレミアム価格は新部品の機能によるところが大きかったわけだ。

 その後の分析から、部品1個につき5ドルを請求できたはずであることが、明らかになった。それは、実際の請求価格のほぼ6倍である。

●飛ぶように売れたノートPC

 1998年創業の台湾のコンピュータメーカー、ASUS(エイスース)は、120億ドル企業に成長し、世界4位の規模を誇るPCメーカーとなっている。2008年に同社は、低価格路線だった従来の商品群よりもさらに安い「Eee PC」を発売した。このミニノートブックの表示価格は、299ユーロであった。

 消費者はEee PCに飛びつき、ドイツやフランスなどでは数日のうちにほぼ完売となった。小売業者によれば、需要が供給を900%上回ったという。エイスースでは、売れるスピードに製造が追いつかなかったのだ。

 エイスースはEee PCに、もっと高い価格を設定できたはずだ。299ユーロ以上の金額を出してもよいと考える層に向けて販売した後、増産の準備が整ったら大衆市場向けに価格を落とせばよい(上層吸収戦略/スキミングと呼ばれる典型的な手法だ)。同社はその反対に、マーケットシェアの急速な拡大を目指して安価に設定したものの、予測をはるかに上回る需要に供給が追い付かなかった。これは、莫大な利益の可能性を秘めたイノベーションでチャンスを逃してしまう典型例である。